研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

生活保護受給者の医療費の自己負担導入についてメモ

http://mainichi.jp/select/news/20121003k0000m010092000c.html

三井辨雄(わきお)厚生労働相は2日、生活保護をめぐる自身の発言について訂正する記者会見を開いた。初入閣の三井氏がスタートからつまずいた形で、今後の国会答弁などに不安を残した。

 三井氏は2日の閣議後の会見で、全額無料の生活保護の医療費に関し、「全部無料はあり得ないということも含めて検討したい」と述べ、自己負担導入の容認ともとれる発言をした。記者からただされると「全額無料廃止ではない」と修正。さらに、2日夕に再度、会見を開き、「発言の趣旨は、さまざまな意見を聞きながら医療扶助の適正化を強化していく必要がある旨を述べたものだ」と釈明した。

前に医療扶助および生活保護受給者の医療負担の自己負担化についてつぶやいたので、それを一部修正・追記して転載。

「医療扶助も濫用防止と無料での医療受給権確保のためのフリーアクセス制限などがありえる」と書いたがスウェに来て以来たまに考える。スウェは日本のようなフリーアクセスはなく我が県は予約制の一般医受診の他、市内に数箇所予約なしで行ける一般医の診療所がある。専門医への直接アクセスは不可。

専門医への直接アクセスや選択肢がないのは、日本の医療になれた身からすると不便極まりないし不安も感じる。一方で、年間の医療費上限は10000円ほどと低額になっており、それ以降は無料(薬は20000円ほど)。上限までの一回ごとの受診料は原則定額制で1500-3000円ほどか。

厳密な議論ではないが、日本で老人医療費無料化が廃止されたように、おそらくフリーアクセス(コンビニ的感覚での医者利用@日本)と低い自己負担(@北欧やイギリスやカナダのNHS)には一定のトレードオフがあり、いいとこどりをすることはどの国でも財源制約上難しいのではないか。(これは医療政策研究者にはよく知られた事実だと思うが、今は文献参照する時間ないのでスルー)

生活保護の医療扶助も、制度上はフリーアクセスではないようだが、「自己負担無料」であることによる需要サイド、供給サイドのインセンティブからの過剰診療が問題視されてるようだし、だから医療扶助の生活保護からの切り離し(国保への組み入れ?)や自己負担導入の議論がなされているのだろう

生活保護受給者への自己負担導入は、医療ニーズが高い受給者の受診抑制を生むのはおそらく間違いない。「受診の有無にかかわらず標準的自己負担額を保護基準額にを上乗せした上で自己負担導入」という林正義氏のより穏当な提案(日経経済教室2011.12.26)でもこの問題は避けられない。

折衷案として、アクセスは不便だが無料(or上限が低額)で質が担保された(公的or民間)診療所と、現行制度のフリーアクセス&3割負担の併用はどうか。これを万人に適応すると色々摩擦があり見通しわからなくなるが、生活保護受給者を対象にこうした制度にすることはできないか

「万人に適用すると見通しわからなくなる」というのは、万人に対して1.アクセスは不便だが無料(or上限低額)の診療所と2.現行制度下のコンビニ的3割負担診療所の両方を保障するのは個人的にはいいことだと思うが(日本の3割負担や高額療養費は低所得者層や高医療ニーズ層には負担が重いという立場なので)、現行の病院・診療所にとって無料診療所は脅威だろうし、医療サービスの二極分化に繋がる可能性もありそう。

なので現行制度を前提とした上で、生活保護受給者には、非受給者と同様どの病院にも3割負担で通ってよいことにして、かつ指定診療所への無料アクセス(ただし予約制や厳しめのレセプトチェックなどの制約あり)も保障する、というのはどうだろう。この場合、受給者の(3割負担の)病院へのアクセスをあまり悪化させないように、林案のように一定額保護費に上乗せしてもいいし、そこに医療ニーズ判定を導入することも、行政的に可能ならばありうるかもしれない。

生活保護受給者の医療扶助の問題は、非受給者の低所得者や医療ニーズの高い人々の医療アクセスや医療費負担の問題とも地続きの問題なので、フリーアクセス&3割自己負担&高額療養費制度という日本の医療サービス利用のあり方そのものをどう評価するかという難題とも関係してくるので、今後も考えていきたい所存。

思いつきなので、玄人&素人の皆さんのフィードバックがほしいところです。

参考文献:林正義 経済教室(2011.12.26)「生活保護、対象範囲限定を 国保・年金と併せ制度改革」

社会保障・税一体改革の3党合意(2012.6.15)関連メモ(気が向いたら拡充)

社会保障・税一体改革で民主・自民・公明の3党実務者合意案

3党実務者確認書
http://www.dpj.or.jp/download/7217.pdf
社会保障・税一体改革に関する確認書
http://www.dpj.or.jp/download/7218.pdf
税関係協議結果
http://www.dpj.or.jp/download/7219.pdf

民主党

社会保障・税一体改革で民主・自民・公明の3党実務者合意案まとまる(民主党ウェブサイト)
http://www.dpj.or.jp/article/101147/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E3%83%BB%E7%A8%8E%E4%B8%80%E4%BD%93%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%81%A7%E6%B0%91%E4%B8%BB%E3%83%BB%E8%87%AA%E6%B0%91%E3%83%BB%E5%85%AC%E6%98%8E%E3%81%AE%EF%BC%93%E5%85%9A%E5%AE%9F%E5%8B%99%E8%80%85%E5%90%88%E6%84%8F%E6%A1%88%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%81%BE%E3%82%8B

衆院社保・税一体改革特委】3党提出法案・修正案を趣旨説明
http://www.dpj.or.jp/article/101171/%E3%80%90%E8%A1%86%E9%99%A2%E7%A4%BE%E4%BF%9D%E3%83%BB%E7%A8%8E%E4%B8%80%E4%BD%93%E6%94%B9%E9%9D%A9%E7%89%B9%E5%A7%94%E3%80%91%EF%BC%93%E5%85%9A%E6%8F%90%E5%87%BA%E6%B3%95%E6%A1%88%E3%83%BB%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E6%A1%88%E3%82%92%E8%B6%A3%E6%97%A8%E8%AA%AC%E6%98%8E

自民党

【FAXニュース】No.162 「子ども・子育て新システム」には反対です(自民党2012.5.25)
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/recapture/pdf/064.pdf

【FAXニュース】No.163「社会保障と税一体改革」について(自民党2012.6.27)
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/065.pdf

公明党

公明の福祉ビジョンが前進(2012年06月17日)
http://www.komei.or.jp/more/realtime/201206_01.html

その他

西沢和彦(日本総研)≪税・社会保障改革シリーズ①≫社会保障・税一体改革3党合意の評価と課題(2012.6.21)
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/policy/pdf/6156.pdf

内閣官房

社会保障改革」トップページ
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/index.html

社会保障・税一体改革に関連する国会提出法案等
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/houan.html

内閣府経済社会研究所論文VS厚生労働省あるいは鈴木亘VS権丈善一

「年金の世代間格差、厚労省内閣府の試算に反論」(日経新聞 2012/4/24 21:30)
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E0E6E2E0978DE0E6E2E6E0E2E3E09797E0E2E2E2

厚生労働省は24日、年金の給付と負担の世代間格差を巡る内閣府の試算に反論した。50歳代半ば以下の世代で支払いが多くなるとの試算に対し、前提となる指標などに関する疑問点を列挙。年金の財政方式についても現行の仕組みの意義を訴えた。年金制度の改革を求める声が相次いでいるのに対抗した形だが、現状を肯定するだけの路線には批判も目立つ。

これは4月24日の年金部会 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000294x3.html の参考資料1、2の話のようだが(年金部会の話だということくらい書いてほしい日経新聞)、この元ネタは第4回社会保障の教育推進に関する検討会資料 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026q7i.html の資料2-1,2-2。

(それにしても、研究者個人(4人の共著)のワーキングペーパーを、内閣府の試算といってよいのだろうか。そうだとすると、ESRI Discussion Paperは全部内閣府の見解と報道してもよいことになってしまう。厚生労働省厚生労働省で、「2012 年 1 月 内閣府経済社会総合研究所から ESRI Discussion Paper NO.281 として公表(研究者の個人論文)」という形で引用しないで、著者たちの名前を書くべきでは。)

で、後者の「検討会資料」の資料2-1には「※3,6,11,12,19,21,23,25,26,27ページの図表については、慶應義塾大学 権丈教授提供による」と書かれているように、実質的に年金部会の参考資料2および教育推進に関する検討会資料の資料2-1は権丈善一http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/ のペーパーといってよいのかもしれない。そして批判対象のESRI Discussion Paper (http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis290/e_dis281.html) はもともとは鈴木亘氏の研究をベースにしているので、これは実質的に(待望のw)鈴木氏VS権丈氏という側面が強い。

権丈氏は、ウェブサイト http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/ では自説を常々展開しているが、このような形で東洋経済や他のメディアの記者、そして今回のように厚生労働省を使って自説を展開することが多い。それはかまわないが、できれば個人名で論文(査読論文にはならなそうなトピックなのでワーキングペーパーで)にして、しっかり論争をしてほしいものだ。そしてもっと議論が(もっとガチンコで)盛り上がってくれるといいと思う。

現状は、お互いがお互いを「誤解している」「理解していない」と罵り合っている状況で、年金問題の議論の対立点が素人にはなかなか見えてこない。そして日本の経済学会上あるいは経済学会に留まらない年金論議全体での鈴木氏や権丈氏のポジションなど知る由もない素人たちの間では、ただただ経済学不信は高まっていく(かもしれない)。(追記:そういう意味で、比較的具体的に「世代間格差」論を批判したこの厚生労働省資料は議論を進める契機になりうる。)

それはともかく、おそらく鈴木氏はそのうち反論を載せると思うが、その前に小黒氏がアゴラに反論を載せ、それについて私はツイッターでメモしたのでここに改行し直しつつ転載。

これはまったく議論がかみ合っていないのではないか。。。>厚労省資料(世代間格差に対する反論)の簡易検証 http://t.co/UYTlvFZq

厚労省ペーパーの論点を読んだとおりにざっとまとめると

1.保険給付の期待値以外にリスク軽減による期待効用増も考慮すべき
2.割引率の設定次第で「給付」の現在価値換算の数値が変わり、賃金上昇率ではなく利回りを割引率とすると「世代間格差」が大きくみえる
3.技術進歩があり世代により中身が異なる医療・介護をただの「費用」として捉えて割引現在価値換算することに意味はない
4.事業主負担をなくして本人負担のみにした場合に事業主負担が100%従業員の賃金に転嫁されるとは考えにくいのでこの部分を全額本人負担として計算できるかは不確か
5.給付と負担の関係を給付の保険料支払いと給付の割引現在価値の「引き算」で求めているが、年金制度ではその時代の給与水準に対して何%もらえるかという「所得代替率」が一般的な指標

以上が「技術的論点」らしい。

一方、その後の「定性的論点」はぐちゃぐちゃ書かれていて分かりにくいが、

6.年金・医療・介護の「恩恵」として、受給世代になったときの給付だけでなく、老親への私的扶養軽減効果を考慮すべき
7.前世代が築いた社会資本の恩恵を考慮すべき
8.教育や子育て支援は現在の若者のほうが充実している
9.親からの財産相続を考慮すべき

という感じ。

そして最後に2の論点について「世代ごとの人口構成が同じと仮定すれば、世代間格差の生じる余地のない公平な制度」においても「“割引率”の仮定や“賃金上昇率”を見込むことによって、割引現在価値換算額でみた拠出の合計額と給付の合計額の“倍率”に違いが生じ」、「大きな割引率で割り引くと 1 を下回る」ことを、参考資料の「ケースIII」で示している。これはたんに割引率が大きけりゃ人口構成や制度設計が公平でも負担と給付の間の「世代間格差」は計算上生じうる、という話の傍証のようで、これをもって内閣府ペーパーを全否定しているわけではない。

それに対して小黒氏は、この参考資料の「ケースII」に注目し、『第6世代から第12世代の年金給付と負担の倍率(=給付計÷拠出計)は「1」と計算される。どうやら、厚労省はこのようなケースもあるから、世代間格差の議論は確かなものとは限らないと主張したい模様である』と書いている。そしてその上で、「(賦課方式が引き起こす)世代間格差は、少子高齢化の下での問題であり、人口が不変または順調に拡大するケースでは、そもそも議論の必要がないテーマなのである」と最後に結論付けている。だが参考資料で人口不変としているのは単に割引率の効果を見るための便宜的設定では。

いずれにせよ年金問題の門外漢からすると、厚労省・権丈ペーパーの「参考資料」部分(エクセルシート計算部分)ではなく、1〜5の技術的問題点と6〜9の定性的論点すべてについてのガチバトルを期待。あくまで印象論だが1〜9全ての論点について経済学はフォーマルに扱うことができる気がするし。

メモ:おおやにき氏エントリ「あるべき姿とその実現」へのコメント

ちょっと前に

あるべき姿とその実現
http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000846.html

のコメ欄に書いたのでメモ。

これについて今日ツイッターでちょっとつぶやいたのでそれもメモ

いつも割と納得なナシナリさんだが、今回は、1.ピアレビューのくだりは権丈氏にもそのまま当てはまる。権丈さんピアレビューに論文書けw 2.竹端-おおやにき論争についてはおおやにき氏エントリコメ欄に書いた通り。回答もらってるのに今気づいた。> http://t.co/qfBMVpyv
posted at 17:09:59
おおやにき氏の続きのエントリhttp://t.co/OjBgh3sR でも自分のコメントに言及されているのを発見。これに対する私の反論は、消費税10%で足りないなら他も含めてもっと税収増を図れというもので、あえて「ニーズ高い者同士の分捕り合戦」話に持ち込みたい意図が良く分からない
posted at 17:17:02
ちなみにこれは短期的なリフレ派の「消費税増税反対」ともそんなに対立しない。現在の消費税増税の問題点が、増税分が(社会保障増ではなく)国債発行減や国債償還に多く回されて緊縮財政的な色合いが強いことならば、消費税増税ストップではなくて全部社会保障増に使うことを提案したっていいわけだし
posted at 17:26:06
ただこんな話=「消費税増税は全額社会保障支出増」(おおやにき氏を意識して障害者福祉分を最低3000億くらい(てきとう)含むものとする)に回し緊縮財政回避。財政再建はリフレで中長期的に)を支持する人がリフレ派にどんくらいいるかわからないし、こういうヨタ話はこのくらいに。
posted at 17:35:13
ちなみにリフレ派議員の金子氏は去年こう言っている http://t.co/Umb1ZTRu 消費税増税の「財政再建分」割合を大幅に減らしてほぼ全て「社会保障強化分」に回せという論陣を張る選択肢はリフレ派にはなかったのだろうか。一部の論者を除いてあんまりなさそうだが、求む情報。
posted at 17:42:38
そうですね。どう取りどう回すかで分捕合戦の様相は変わるので工夫必要ということですねRT @bn2islander 増税に限界がある以上、私も、ニーズ高いもの同士の分どり合戦になってしまうと思います。権丈先生が医療費の財源に消費税ではなく健康保険料の増額を唱えているのと同じ意味では
posted at 17:51:13
ちなみに我がコメ http://t.co/yfgh9eRG が皮肉られてる大屋氏のこのエントリ http://t.co/OjBgh3sR は細かい所除いてそんな異論ない。ただ竹端氏の言論を、このエントリ最後の「地道な作業」と見るか「大学に所属する政治運動家」と見るかの違いはある。

さらにマシナリさんのコメ欄にもしつこく書いたのでメモ。

学術知と実務知の間にあるはずの長い距離の自覚と無自覚
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/?no=509

メモ:高橋洋一氏が反論!「その消費増税論議、ちょっといいですか」&スウェーデンの社会保障事情

高橋洋一氏が反論!「その消費増税論議、ちょっといいですか」
番外編 日銀の金融政策で財政再建と円安誘導は簡単にできる
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120313/229746/?P=1

いろいろ勉強になるが、2箇所、(本記事のメインの内容からすると瑣末な点で)事実誤認というか、内容が不正確な点をメモ。

そもそも消費税は、普通の国では地方の一般財源です。だから分権化した後、地方の行政サービスを向上させるために地方の消費税率を上げますという話なら分かる。消費税を国の税金として社会保障に使おうとしているのがおかしい。

高橋氏はいつもこう言っているが、

租税負担率の内訳の国際比較(国(連邦)税・州税・地方税
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/022.htm

を見るとわかるように、たしかに消費税を地方(特に州レベル)に割り当てている国はあるけれども、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンと、アメリカ以外の国では消費税は中央の一般財源としてそれなりに入っている。

次に、

スウェーデンも歳入庁がありますね。スウェーデンでは、個人は社会保険料を払っていないですね。社会保険料や年金は法人税が財源でしたね。

これは質問者のコメントだが、「法人税が財源」というのはミスリーディングだと思う。確かにスウェーデン社会保険料社会保障拠出金)は雇用主負担がほとんどだが、法人税とは別。

参考

飯野(2008)スウェーデン社会保障所得再分配
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18429304.pdf

内閣府経済社会総合研究所(2005)スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調(が株式会社富士通総研に委託)
第2章第6節 スウェーデンと日本の国民負担の比較
http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou014.html

高山憲之(2008)スウェーデンにおける税と社会保険料の一体徴収および個人番号制度
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~takayama/sweden0804.pdf

伊集守直(2004)スウェーデンにおける1991年の税制改革
http://kamome.lib.ynu.ac.jp/dspace/bitstream/10131/3419/1/KJ00004763244.pdf

ちなみに、スウェーデン社会保障は、現物給付は地方税(登録や納税は税務署)で、現金給付は社会保険で、という住み分けがかなり明確であり、分かりやすいのが特徴である。神野・井手(2006)『希望の構想』は、このようなスウェーデン型の現物給付と現金給付の住み分けを提言している。ただ、特に介護と医療が現行の日本の(中央集権型の)社会保険制度とかなり異なり、地方政治の状況もだいぶ違うので、日本でこれをすぐに実現するのはかなり厳しいと思う。あくまで最終目標あるいは理念であり、改革は段階的にということなのかもしれないが。

希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン

希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン

さらに言うと、スウェーデンでは、多くの手続きはオンライン化がかなり進んでいる印象がある。自分もプライベートでそれなりの地方自治体サービスを受けてきたほうだが、未だに市役所に行ったことは一度もない。もちろん税務署や移民局は住民登録や滞在許可申請で行く必要がある。

スウェーデン社会保険庁(英語ページ)
http://www.forsakringskassan.se/sprak/eng/

スウェーデンの税務署
http://www.skatteverket.se/2.18e1b10334ebe8bc80000.html

自治体サービス例:ストックホルム市の保育園のページ(オンライン申請・登録・マイページへのログインができる。他市も似たような感じ)
http://www.stockholm.se/ForskolaSkola/forskola/

ついでに、参考までに日本の「先進自治体」三鷹市の「みたか子育てネット」のホームページ

http://www.kosodate.mitaka.ne.jp/

わかりやすいけど、申請のページはこんな感じ。申請書類の数のレベルが違う。
http://www.kosodate.mitaka.ne.jp/download/

スウェーデンには個人番号(personal number)が存在し、税務署、社会保険庁自治体間の情報シェアが容易なので、紙ベースの申告書や証明書は必要ないケースが多く、銀行IDなどを使って自治体ウェブを通じてオンライン登録し、サービス申請と簡単な自己申告をする(もちろん、全部が全部そういうわけではない)。

メモ:「@dojin_twさんによるエスピン・アンデルセン『平等と効率の福祉革命』コメント」

ツイートしたのをまとめて頂いたのでメモ。コメント欄に補足も書いた。解題の評価はともかく、とにかくいい本であり、訳してくれた大沢真里氏らには感謝。やや学術的だけど、この本を出発点にいろんな議論ができる。そういう本。

@dojin_twさんによるエスピン・アンデルセン『平等と効率の福祉革命』コメント
http://togetter.com/li/253122?f=tgtn

ネタ元はこの本です↓

平等と効率の福祉革命――新しい女性の役割

平等と効率の福祉革命――新しい女性の役割

この本と似たような内容で、もう少し一般向けのものはこちら。

この本については昔ブログで簡単なコメントを書いた。

経済学と社会学の幸福な協働
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090119#p1

ここでの

新奇な発見や高度な分析手法があるわけではない。優れた経済学・社会学の実証研究の蓄積によって明らかにされた経済的・社会的事象やその因果関係が、彼の確かな社会学的視点によって有機的に結び付けられ、分析される。そして、それらの事象が生み出す様々な問題に対する説得的な解決の方向性が示される。

というスタイルは、『平等と効率の福祉革命』にも受け継がれ、バージョンアップされている。

エスピン・アンデルセン関連エントリ:

富永健一(2001)『社会変動の中の福祉国家 家族の失敗と国家の新しい機能』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050314#p1

子育て支援と子どもの福祉メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060228

日本の左翼は何を学べばよいのか。
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061016#p1

『福祉社会の価値意識 社会政策と社会意識の計量分析』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070201#p3

フローレンスモデルについてのメモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070523

イギリス社会学の伝統を踏まえた実証的貧困研究と日本の「主流派」社会学におけるイギリス社会学の不在
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20081220#p2

経済学と社会学の幸福な協働
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090119

東アジア福祉国家論メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100226

メモ:筒井淳也「福祉国家に対する冷静な視線――福祉レジーム論とジェンダー
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100809#p1

介護が女性の就業に与える影響についてメモ  

財政状況の悪化、少子高齢化の進展、世代間格差論・シルバー民主主義論の台頭などにより、「高齢者のニーズ」という観点からだけで介護保障の維持・拡充を主張するのは(空気感として)難しくなりつつあると感じる。しかし公的介護保障により恩恵を受けるのは高齢者だけではない。そもそも日本で公的介護保険が導入された背景には、樋口恵子を代表とする「女性」視点での運動もあった。この視点を、再度、きちんと前面に出していく必要があるだろう。

高齢社会をよくする女性の会
http://www7.ocn.ne.jp/~wabas/

大熊由紀子「物語・介護保険」 第6話「ヨメ」たちの反乱(月刊・介護保険情報2004年9月号)
http://www.yuki-enishi.com/kaiho/kaiho-06.html

大熊由紀子「物語・介護保険」 第20話 ヤーさんと9人のサムライたち(上)(月刊・介護保険情報2005年11月号)
http://www.yuki-enishi.com/kaiho/kaiho-20.html

公的介護保障の縮小による家庭での介護負担の増大はどのような帰結を生むか。高学歴・高所得層(の女性)は、公的介護保険を利用しつつも私費負担を拡大することによって、労働市場からの退出を防ぐことができるかもしれない。また近年、高キャリア女性への会社からの理解や支援も大きくなってきているだろうから、その点でも高所得層の女性への影響は相対的に小さいかもしれない。一方、私費負担拡大が難しい低学歴・低所得層の女性は、(現在もそうであるように)労働市場からの退出と私的ケア負担の拡充によって介護保障の縮小に対応する可能性も高い。

このように、介護ニーズが発生したときに、所得階層によって(特に女性の)労働市場参加の格差が生じると、低所得層の家計所得の減少、女性のキャリアの中断、女性からの税収・保険料収入の減少などが生じる。さらにこれらの帰結は、家庭のあり方(家事分担や教育など)、キャリア中断した女性の老後に至るまでの生活保障、公的社会保障財源に与える影響など、2次的、3次的な影響も発生する。

日本の女性、特に私費負担や会社の支援によって家族領域での育児・介護負担をカバーすることが難しい女性は、たとえフルタイムで働き続けたくとも、結婚時、妊娠・出産時、育児期、さらには親の介護期と、ライフコースにおいて何回もこのような労働市場からの退出や部分的退出を迫られるのが日本の現状である。

「世代別の受益と負担」を計量的に推計する世代会計論やその論壇・世間向けバージョンである世代間格差論は、(主に年金をターゲットにしているとはいえ)このような高齢者向けの公的社会保障の縮小が、家族というインフォーマルな領域に与える「負担」の影響や、男性・女性間および所得階層ごとの影響の非対称性・異質性など、「社会全体」に与える様々な影響やその非対称性・異質性を計量的分析に組み込めていない。(ただし、これは、理論的・技術的に難しいというのもあるが、フォーカスが一定の仮定に基づいた「世代間格差」にあるからこそ捨象しているという側面もあるだろう。)

かといって自分が異なる確立されたパラダイムを提起したり、こういうかなり複雑な要素も加味した世代会計論を構築できるわけでもないので、とりあえずネットで入手できる「介護が(女性の)就業に与える影響」に関連する、日本でのミクロ経済学・ミクロ計量分析的な実証分析について文献メモすることにする。介護保障の他、介護休業など労働市場側に焦点を当てた研究も多い。

以下、ネットで入手できる日本語論文のリンクと要約(要約がない場合には導入やまとめからの抜粋)をコピペ。ちなみに、これらの論文の計量分析の質や妥当性については検討していない。

清水谷諭・野口晴子(2003)「長時間介護はなぜ解消しないのか?−要介護者世帯への介護サービス利用調査による検証−」ESRI Discussion Paper Series No.70
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis070/e_dis070.html
要旨

1.趣旨、問題設定
 2000年に導入された公的介護保険の最も重要な目的の1つは、介護保険を通じた家族以外の介護サービスの利用を通じた「介護の社会化」によって、「介護地獄」といわれる過度な家族負担を解消することにあった。しかし、驚くべきことに、これまでのところ、介護保険の導入によって長時間介護が解消したかどうかは、全く検証されていない。
 本論文は内閣府が独自に実施した要介護者世帯への介護サービス利用調査によって、長時間介護の実態、長時間介護を規定する要因について定量的な検証を行う。

2.手法
 本論文では、まず、内閣府が要介護者を抱える世帯に対して独自に実施した「高齢者の介護利用状況に関するアンケート調査」(2001 年及び2002年)のミクロデータを活用して、長時間介護の実態を初めて明らかにする。
 次に、長時間介護を規定する要因を明らかにする。具体的には、長時間介護が解消しない理由として、(1)制度導入からの時間的経過に着目した「未成熟仮説」、(2)施設サービスの供給不足から在宅介護をせざるをえない「施設入所待機仮説」、(3)家族介護と家族以外から提供される介護サービスの間の財の性質の違いに着目した「家族介護非代替仮説」、(4)自己負担率の上昇が需要を低下させる点に注目した「低所得者仮説」、(5)家族介護が遺産動機と結びついているとする「戦略的遺産動機仮説」の5つを取り上げて、定量的な検証を行う。

3.分析結果の主要なポイント
(1) 長時間介護の実態をみると、主として介護を担っている介護者の介護時間は若干減少したものの、要介護者の介護に必要な介護時間に占める割合はあまり低下していないことがわかった。さらに、長時間介護世帯では、要介護者の健康状態が悪く、介護者の健康も蝕まれている可能性があるなど、物理的な時間の長さだけでなく、健康面においても介護負担が深刻であることが分かった。
(2) 長時間介護が解消しない理由としては、1割の自己負担を避けるために、家族介護を行わざるを得ないこと、家族介護が外部の介護サービスと代替できないこと、さらに、長時間介護が12時間以上に及ぶと家族介護が遺産動機と結びついている可能性があることによるものであることがわかった。

4.結び
 1割の自己負担が家族介護を強いているという結果に基づけば、長時間介護を強いられている世帯に対して自己負担を軽減する措置が必要であろう。さらに、家族介護が外部の介護サービスと代替できないという世帯については、それが要介護者・介護者の嗜好に基づくものであれば、今後長時間介護が解消していくという可能性は低い。しかし、今後介護保険がさらに定着し、介護サービス市場の整備がより進んでいけば、長時間介護はやがて解消していく可能性もある。最後に、家族介護が遺産動機と結びついているという世帯が、特に介護時間の長いサンプルでみられるという事実は、これが個人の合理的な選択の結果であるとすれば、政策的に働きかけることは難しい。ただ、これは日本人の遺産行動の実証分析としても興味深い事実であり、今後さらに検証を深めていく必要があろう。

大井方子・松浦克己(2003) 女性の就業形態選択に影響するものとしないもの−転職・退職理由と夫の年収・職業を中心として− 会計検査研究 №27

冒頭部より抜粋

本稿の構成について簡単に述べる。次節で転職・退職理由とその後の就業選択の概要について解説する。第3節で定式化と推計方法について紹介する。第4節で推計結果について解説し,最後に本稿のまとめが行われる。
結論を最初に述べれば次のとおりである。
① 転職・退職理由が「給与や勤務時間でより有利な職が見つかった」,「職種や仕事内容が自分により向い
ていた」という積極的な理由と「結婚退職」や「出産退職」とでは,その後の就業形態選択は全く異なる。
② 夫の年収は女性の就業形態選択に統計的に有意な影響は与えていない。

結論部より抜粋

介護休暇や看護休暇に対する評価は更に厳しい。これらの数字は,既婚女性にとり職場での時間調整が決して容易ではなく,出産・育児と女性の就業の両立の困難性,あるいは子供が病気になったり家族に要介護者がいる場合は,女性の就業が相当難しくなるであろうことを示している。

西本真弓・七練達弘(2004) 親との同居と介護が既婚女性の就業に及ぼす影響 季刊家計経済研究 No.61 pp.62-72
http://www.kakeiken.or.jp/jp/journal/jjrhe/pdf/61/061_07.pdf

結論部より抜粋

以上の分析結果より、母親との同居が妻の就業を促し、非就業及び労働時間の短い父親との同居が妻のフルタイム就業を促すことが明らかになった。同居することにより、家事や育児の援助が受けられ、妻が就業しやすい状況が整うからであると考えられる。しかし一方で、介護は女性の役割として行われている場合が多く、妻の就業を抑制していることも明らかとなった。要介護者がいる場合において、妻が就業するためには何らかの手立てが必要となるだろう。わが国では、1991年に育児・介護休業法が成立し、1999年には介護休業制度が実施された。『女子雇用管理基本調査』によると、介護休業制度の規定がある事業所は1996年では9.7%であったが、1999年には40.2%と急速に増加してきており、介護休業制度を規定している企業が多くなってきていることがわかる。こうした制度の充実により、妻の就業は促進されると考えられることから、制度の充
実や整備が望まれる。また、今後の課題として、介護休業制度の実態を考慮した上での妻の就業行動の分析が望まれる。

西本真弓(2006) 介護が就業形態の選択に与える影響 季刊家計経済研究 No. 70 pp.53-61
http://www.kakeiken.or.jp/jp/journal/jjrhe/pdf/70/070_06.pdf

結論部より抜粋

(1)介護、看病の期間が6カ月未満の場合、就業時間を減らす傾向があり、期間が短いほどその確率が高くなることが男女ともに示された。「短時間勤務制度」を導入している事業所は少なく、最長利用期間も短い。要介護者を看取るまで制度を利用できた者は少ないと推測されることから、「短時間勤務制度」導入の促進と利用期間の長期化が望まれる。
(2)介護、看病の期間が1年未満の場合、女性は休職や退職する傾向があり、特に、介護休業制度の最長限度期間を超えている可能性が高い6カ月以上1年未満の場合に、最も休職や退職の可能性が高まることが確認された。よって、最長限度期間の長期化が継続就業の促進につながると考えられる。
(3)介護、看病の程度に関しては、男女ともに中心となって介護、看病する立場でなければ、継続就業の確率が上昇する。介護、看病の負担が軽減されるような介護サービスが提供され、それらの利用を促せば、介護、看病による休職や退職を抑制することができると思われる。
(4)介護、看病の内容について、女性の場合、食事、着替え、入浴、排泄といった時間集約的で重度の介護、看病を担うことは勤務形態の継続確率を23.8%減少させる。勤務形態の継続を可能にするには、居宅サービスや施設サービスの充実を図り、日常的介護の全面的な援助が必要である。
(5)ゴールドプランについて、女性の場合は実施後に勤務形態を継続する確率が高まり、男性の場合は勤務形態を継続しない確率が高くなっている。女性においては、介護者の負担軽減というゴールドプランの目標が達成され、ゴールドプランの実施が仕事と介護の両立可能性を高めたという点に成果がみられる。

我が国では、少子高齢化によって、若年労働者の減少と介護を必要とする高齢者の増加がおこり、労働者は家族の介護と仕事の両立または選択を迫られるという状況が生じている。本稿では、家族を介護しながら働きつづけられるような介護サービスとは何か、どのような制度や政策が望まれているのかを明らかにした。仕事と介護をうまく両立し、介護者が労働市場から撤退することなく継続就業することは、労働力確保の面からも望まれる。また、介護部門を家族から外部へと移行することにより、新たな労働力供給につながることも期待できるだろう

樋口美雄他(2006)介護が高齢者の就業・退職決定に及ぼす影響
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/06j036.pdf
概要

家庭内の要介護者の存在が高齢者の就業・退職決定にどのような影響を及ぼすのか、高齢者を対象としたパネル・データに基づいて分析を行った。主な分析結果は次の通りである。1)家庭内の要介護者の存在によって、家族の就業は抑制される傾向にある。しかし、2)介護負担によって就業が抑制されるパターンは、男性と女性で異なっている。具体的には、介護は男性では正規雇用や自営業の就業・退職決定に影響するのに対して、女性では非正規雇用の就業・退職決定に影響を与える。 3)2000 年に導入された介護保険制度が、介護の就業抑制効果に変化をもたらしたかどうかはっきりした結論は得られなかった。 従来、高齢者就業を阻害しうる要因として公的年金制度や定年制に関心が払われることが多かったが、今後は家族の介護負担を軽減するような施策に力点をおくことも高齢者の就業を促進させるうえでは重要である。

酒井正・佐藤一磨(2007)介護が高齢者の就業・退職決定に及ぼす影響 日本経済研究 No56
http://www.jcer.or.jp/academic_journal/jer/PDF/56-1.pdf

要約

家庭内の要介護者の存在が高齢者の就業・退職決定にどのような影響を及ぼすのか、高齢者を対象としたパネノレ・データに基づいて分析を行った。主な分析結果は次の通りである。1)家庭内の要介護者の存在によって、家族の就業は抑制される傾向にある。しかし、 2)介護負担によって就業が抑制されるパターンは、男性と女性
で異なっている。具体的には、介護は男性では正規雇用や自営業の就業・退職決定に影響するのに対して、女性では非正規雇用の就業・退職決定に影響を与える。 3)2000年に導入された介護保険制度が、介護の就業抑制効果に変化をもたらしたかどうかはっきりした結論は得られなかった。 従来、高齢者就業を阻害しうる要因として公的年金制度や定年制に関心が払われることが多かったが、今後は家族の介護負担を軽減するような施策に力点をおくことも高齢者の就業を促進させるうえでは重要である。

池田心豪(2010)介護期の退職と介護休業 連続休暇の必要性と退職の規定要因 日本労働研究雑誌 No. 597
http://web.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/04/pdf/088-103.pdf
要約

家族介護を担う労働者の就業継続支援として介護休業は法制化されているが, その取得者は少ない。 そこで, 介護休業制度が想定するような連続した期間の休み (連続休暇) の必要から介護期の労働者は勤務先を退職しているのか, それとも連続休暇の必要性とは別の要因で退職しているのかを分析し, 介護期の労働者の実態に即した就業継続支援の課題を検討した。介護開始時の雇用就業者を対象としたデータの分析結果から, (1)介護のために連続休暇の必要が生じた労働者ほど, 非就業になる確率が高いこと, (2)在宅介護サービスには連続休暇の必要性を低下させ, 非就業になる確率を低くする効果があること, (3)連続休暇の必要性にかかわらず, 要介護者に重度の認知症がある場合や, 同居家族の介護援助がない場合は非就業になる確率が高いこと, (4)主介護者となる可能性が高く, 仕事の負担も重いと予想される正規雇用の女性は, 連続休暇の必要性にかかわらず, 介護開始時の勤務先を退職して別の勤務先に移る確率が高いことが明らかになった。 こうした分析結果から, 介護期の就業継続が可能になるために, 在宅介護サービスを利用できないことから就業困難に直面した労働者が休業を取得できるよう, 介護休業制度を効果的に運用するとともに, 介護休業とは別の支援として, 認知症介護に対する社会的支援や, 介護期の勤務時間短縮などの支援を拡充することも重要であることが示唆される。

参考:男女共同参画局の資料:仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する参考統計データ
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/wlb/siryo/wlb01-5_4.pdf

介護を機に仕事を転職、退職した雇用者は約4分の1。介護休業の取得者はごくわずか (p.13)

追加:

大嶋寧子(2012)懸念される介護離職の増加 求められる「全社員対応型・両立支援」への転換
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/150634/