研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

事業仕分けメモ:自立支援法調査と地方交付税

各地で話題になっている国の事業仕分け。ベースになっている構想日本自治体の事業仕分けには昔から興味があったが、ちゃんとフォローしたことはないのでとくになんも言えることはない。

地方交付税も今日、対象になるということでぷらぷらと行政刷新会議のサイトを見ていたところ、障害者保健福祉推進事業費(障害者自立支援調査研究プロジェクト)については、WG結論は「廃止」だとか。

http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov12kekka/2.pdf

備考のところに

※累計68億円を投入。543件の調査結果を活用すべき。成果実績が不明。不透明なプロジェクト採択。

とある。確かに、この手の調査研究プロジェクトはよくわからないものも多いし、研究成果がどう活かされているのかわからないものも多いので、こういう結論もありうるかもしれない。しかし自立支援法調査研究プロジェクトだけで543件も調査やっているのか。。。1件たりとも報告書みたことない。厚労省のサイトくまなく探したらどっかにあるのか?

まぁ調査の中身はよく知らないし、仕分けの際の議論もわからないのでとくにコメントはないが、私が知る限り、自立支援法になって一般人がアクセスできる障害者福祉の統計は、支援費時代よりも後退している。厚生労働省自身も状況把握ができなくなったという話を聞いたこともある。

地方分権はいいとしても、日本全体の実態を正確に把握するための統計整備や調査実施、およびそのための枠組みを示して自治体に統計・情報の報告を義務付けることは重要な国の任務だと思うので(これは地方分権によって自治体間の差異や格差が拡大しうる時代にはいっそう重要になるともいえる)、誰もよまずに量産される(しかも読みたくても容易にアクセスできない)調査研究を削減するのはよいが、そのかわりの調査体制の構築およびその実施のための予算はきちんとつけてほしい。

あと、543件の調査結果の中には有用な調査が必ず含まれているはずだ。もちろんこれらの調査の多くは政策・施策の構築。実施のための基礎資料だったりするのだろうが、国民や研究者にアクセス可能にすることによるメリットも多くあるはずだ。こういう調査研究は全省庁を含めると膨大な数になると思うが、ネット上で入手できるにしても、あちこちに散らばっていたりする。統計ポータルサイトと同様に、そういう報告書の検索・閲覧が容易にできるような省庁横断ポータルサイトをつくったらどうだろうか。

追記
誰もが、どうやるの?と疑問を持っていたであろう、地方交付税交付金の「事業仕分け」を見てみた。全体のなんとなくの結論は、私なりに解釈すると、「地方交付税は制度が複雑すぎてよくわからず、ちょまちょま改善していってもたぶん無駄も多いだろうから、抜本的な見直しが必要だと思うよ。」という感じである。正確な人数は記憶していないが、10人くらいは「抜本的な改革が必要」と結論したらしく、5人くらいは「地方財政計画は廃止すべき」といったようだ。分権が進むなかで地方交付税の機能は一層重要となるといった地方分権改革推進委員会の第4次勧告(http://d.hatena.ne.jp/dojin/20091111)とは真っ向から異なる感じ。

基本的には昔から続く交付税論議の繰り返しのようだったけど、民主党はほんとにこの「抜本改革」の方向で地方交付税の「事業仕分け」を進めていくのだろうか。でも誰も「抜本改革」の中身には触れていないけど。まぁそういう意味では民主党の「地方主権」というキャッチフレーズと似たようなふわふわ感のある結論だった。

にしても、何人かの有識者が「市民の立場からすると」とか「国民の立場からすると」という枕詞をおきながら自分の主張を連呼していたのはどうかと思った。いやいや、少なくとも私は意見違いますから、その「国民」とか「市民」の1人の中に私は入れないでください、あなたは1人の有識者として、その言動の責任はあなた1人で背負ってください、と思ったウォッチャーは私1人ではないだろう。

とここまでを読めばわかるように、私はざっくりいうと地方交付税を肯定的に評価し、抜本的改革ではなく漸次的に改革していけばよいのではという立場で、「地方主権」ではなく「地方分権」という言葉を好む立場なのだが、ただやはりいつも(今回も)感じるのは、この制度は複雑すぎて、理解しようと試みるものはみんなげんなりしてしまうのだということだ。

私は、地方交付税制度の複雑さは(自分もどこまでちゃんと理解しているか自信なし)、ある程度までは社会・政治・行政の複雑さの反映であるので仕方ないのではと思うのだが、今回の仕分け生中継を聞いてもわかるように、多くの人々はこの制度の全体像(そんなものがあれば、だが)を理解しないまま議論するので話はまとまらないし、やはり国・地方の財政の根幹の一つである大切な制度に対する国民および有識者の理解度がこの有様というのはまずいのではないかと思う。そういう意味では、ブラックボックスの部分を少なくし、もう少し制度をわかりやすくすることは必要だろう。

いずれにせよ、今回の交付税の「事業仕分け」はおそらくたいした意味を持たないだろうにせよ、やはりなんらかの改革は行われるだろうから、地方分権改革推進委員会を引き継ぐ場でどのような議論が行われていくのかに要注目。

1人親世帯の貧困率54.3%、先進国の中で最悪水準

http://www.asahi.com/national/update/1113/TKY200911130360.html

厚生労働省は13日、子どもがいる1人親世帯の「相対的貧困率」が07年調査では54.3%だったと発表した。親が複数いる世帯に比べて5倍以上。1人親世帯の子どもを取り巻く経済環境の厳しさが浮き彫りになった。国として初めて算定したが、先進国の中で最悪の水準だった。

 相対的貧困率は、貧困層が占める割合を示す。所得から税金などを差し引いた世帯の「可処分所得」を1人当たりにならし、高い順に並べた時の真ん中の人の所得を「中央値」と設定。今回の中央値は年228万円で、その半分の114万円に満たない人の割合が「相対的貧困率」となる。

 18歳未満の子どもがいる現役世帯(世帯主が18〜64歳)の貧困率は12.2%。そのうち大人が2人以上いる世帯は10.2%だが、大人が1人では過半数を占めた。

 経済協力開発機構OECD)の08年報告書(00年代半ばのデータ)で子どもがいる1人親世帯の貧困率を比べると、日本は58.7%と加盟30カ国中で最も高く、平均の30.8%を大きく上回った。

(中略)

 10月に初めて公表された全体の貧困率は、15.7%。

これはなかなかの数字だ。相対的貧困率ではなくて絶対的貧困率が問題だとして、「途上国の人々に比べればはるかに豊か」という議論をする人がいつもいるけど、これは確かに事実の一面を捉えているが、社会学相対的剥奪社会的排除、経済学の潜在能力理論の観点からすると、相対的貧困率はそれなりの政策的意味を持つ。

これは自分がインドに短期間住んだ経験を考えても正しいと思う。日本の貧困層はインドの中間層よりも「絶対的」には豊かかもしれないが、日本の貧困層は日本に住み、インドの中間層はインドに住んでいる。それがどういう意味を持ち、どういう社会的影響をそれぞれの国にすむ人々の与えるのかをを明らかにしたのが相対的貧困相対的剥奪の概念だろう。

もちろん、相対的貧困率の計り方やサンプルの特性についてはいろいろ議論が必要だろうが。