研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

TV放映を拒否されたスウェーデン民主党の選挙CM

年金受給者用、移民用にそれぞれカウントされていく札束、そこによろよろと歩み寄るスウェーデン人のおばあさん。するとその横から、ブルカをかぶり、ベビーカーを引いた大量のムスリム系の女性が追い抜いていく。。。スウェーデンのテレビ局に放映を拒否されたこのスウェーデン民主党のCMは、ヨーロッパで台頭しつつある福祉ショービニズム(福祉愛国主義・福祉排外主義)を象徴的に描きだしている。


TV4 refuses to air Sweden Democrat ads
http://www.thelocal.se/28622/20100827/
Sweden Democrats ask legal official to rule on ad
http://www.thelocal.se/28632/20100828/

といってもスウェーデンの9月の選挙も福祉ショービニズムもフォローする余裕がない昨今、特にコメントはできないのが情けない。CMも何言ってるのかはわからないし苦笑。(後注:コメント欄で教えて頂いた英訳付きのものに差し替えた)「スウェーデンの今」ブログあたりが取り上げてくれるとよいのだが。

「福祉ショービニズム」という言葉は、日本では政治学者の宮本太郎氏が使用している。日本語ではネット上でめぼしい論文は見つからないが、とりあえず言及があるのはhamachan先生のブログ。

スウェーデンは「ナチ」か?
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-7380.html
「不寛容なリベラル」というパラドクス
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-d56b.html

あとはより思想的な文章だが、ここにも言及がある。

社会の持続可能性について(齋藤純一)
http://www.iwanami.co.jp/shiso/0983/kotoba.html

ここでの『ヨーロッパでは、移民をスケープゴートにする仕方で社会保障の再建を訴える勢力――移民排斥によって社会的連帯の範囲を再度「国民共同体」に閉じようとする「福祉ショービニズム」(宮本太郎)』とはまさに上のCMに当てはまりそうだ。

このCMを作成した「極右」と言われるスウェーデン民主党についてはこちら。日本語ウィキにはたいした解説はない。有名なスウェーデン社会民主党とは違うので誤解なきように。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%85%9A
http://en.wikipedia.org/wiki/Sweden_Democrats

街の真ん中の選挙ブースでは中学生か高校生たちが各政党のブースに回って質問などしているようだが(学校の授業の一環?)、この前通ったら端っこにスウェーデン民主党のブースもあって、担当の若者が高校生っぽい学生たちとやりとりをしていたような(もし違ってたら誰か訂正してください。)。移民の子どもとかはこの政党のブースは行きづらいだろうなぁ。

そういえば政党ブースと高校生で思い出したが、NPO法人Rightsスウェーデンの若者政策についてのレポートを最近出していた。スウェーデンの民主主義教育についての報告もある。未読だが、必要に応じて読みたいのでついでにメモ。

スウェーデンスタディツアー報告書(ダイジェスト版)
http://www.rights.or.jp/archives/pdf/100809.pdf

その参加者の1人のレポートはこちら
小林庸平(2010)スウェーデンの実例から見る日本の若者政策・若者参画政策の現状と課題
http://www.murc.jp/report/quarterly/201003/89.pdf

ついでついでに、私の専門により近く、上記のスウェーデン民主党や福祉ショービニズムの話とも多少は関係する研究としては、潜在的な福祉ニーズの高い難民の外生的な自治体割当を操作変数としてスウェーデン自治体において「福祉の切り下げ競争」(race to the bottom)がどの程度生じているかを計量経済学的に検証した下記の論文などがあるが、やはり「生生しさ」という点では劣る。直接比べるのが間違っているかもしれないが。

Is there a “race-to-the-bottom” in the setting of welfare benefit levels? Evidence from a policy intervention
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6V76-4RC6R58-1&_user=651519&_coverDate=06/30/2008&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=search&_origin=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_searchStrId=1444405033&_rerunOrigin=scholar.google&_acct=C000035158&_version=1&_urlVersion=0&_userid=651519&md5=58da6cb9533d346903da662c71c6be4c&searchtype=a

さらに話はずれるが、スウェーデンでは移民・難民のケアは原則的に市町村が責任を持っており(もちろん国からの財源的手当てはある)、福祉や教育の責任主体が市町村であることとは整合的である。雇用政策との関わりについてはどうなっているのだろう。

日本での移民のさらなる受け入れには賛否両論はあるだろうが、どちらにしろ自治体レベルの現状をみると、実務面・行政面でのハードルはかなり高そう。移民政策というと日本では国レベルの問題として取り上げられることが多いが、一部の自治体では移民の割合がすでにかなり高くなっており、基礎自治体と移民というのは地味だけど重要な領域のはず。