研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

インドのメイドの話

私は大学二年の時、とある現地NGOの研修生として、インドに約五ヶ月間滞在した。しかし、インド滞在中で一番印象に残っているのは、NGOのことではなく、私が滞在した研修生用アパートで働いていたSというメイドと、いつも彼女にくっついて遊びにきていた2人の小さな娘のことだ。彼女たちは、アパートのすぐ向かいのスラムから来ていた。Sは23歳で、ちょうど今の私くらいの年齢だった。
Sの月収は当初、月500〜600ルピー(日本円にして約1500円)。夫は失業中で靴磨きをして稼いでいた。それでも彼女たちの家庭は、幸せに暮らしているように見えた。少なくとも、駅や路上で目にするストリートチルドレンや、ハンセン病を患った物乞いたちに比べたら。

ある日、そんな貧しいながらも幸せそうに見えたSの母が病に倒れた。手術と薬と入院が必要となった。総費用は7000ルピー。医療保険なんてない。親戚などを頼って何とか工面したが、家計はさらに苦しくなった。明日の食材も買えなくなった。Sは、私たちに、恥ずかしそうにお金を求めるようになった。私たちは何度もそれに答えたし、給料も「少なすぎる」とアップした。それでも、お金は足りなかった。

ある時、上の子の体調がすぐれない時期が続いた。私は、病院に連れていったか、とSに聞いた。いった、と彼女は答えた。薬はもらったか、と僕は尋ねた。Sは、処方箋はもらったけど買えなかった、と答えた。薬の値段は500ルピーだった。彼女の当初の月収と同じ値段だった。貧しいってのはこういうことか、と私は初めてわかった気がした。