研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

RIETIの研究プロジェクト「社会保障問題の包括的解決を目指して:高齢化の新しい経済学」

http://www.rieti.go.jp/jp/special/af/036.html

これからは、この種のミクロデータ(個表データ)を用いた計量分析、特にミクロパネルデータ分析(時系列とクロスセクションを兼ね備えた個表データを用いた計量分析)が社会保障分野でもさかんに行われるようになるだろう。しっかりとフォローしなければならない。

上記記事によると、この種の研究において、日本では社会学者や心理学者との共同研究は進んでないらしい。

今までも、社会学や心理学といった分野を専門としておられる方々の中で、我々のプロジェクトをよく理解し、かつ協力してくださる方を探してきました。けれども、日本人でも海外在住の方が多く、様々な問題があり、なかなか順調に進んでいないというのが実状です。たとえば社会学でしたら、RIETI 客員研究員の山口一男先生(シカゴ大学社会学部教授)に専門家の方をご紹介いただき、ご意見を伺ったこともあります。ただ一般的に言えば、専門分野(discipline)が異なると、考え方も大きく異なり、議論のかみ合わないこともあります。いろいろな問題が生じる中でも、プロジェクトをよく理解してくださる方を探し続け、コンタクトしています。ですからそのような方々に早くプロジェクトに加わっていただきたいと思っています。

社会学者とかみ合わない理由が、研究方法上のテクニカルな部分なのか、それとももっと底にある社会科学に関する哲学の違いによるものなのかはよくわからない。おそらく、アメリカ系の計量社会学(よくしらないけど)の訓練を受けたものならば、テクニカルな部分も、哲学的な部分も問題ないと思うのだけれども、ドイツ・フランス社会学の強い影響下にある日本では、テクニカルな部分ではついていけず、哲学的な部分では相容れない社会学者が多いのだろう。

ミクロ・パネルデータ分析への道のりは大変である。まず統計・確率の基礎を学んだ後に、入門レベルの(行列演算を用いない)計量経済学を学んで、同時に行列演算をみっちりやったあと、中級・上級レベルの計量経済学をやって、その中で最小二乗法をある程度ものにした後に、最尤法を学んで、トービット、ロジット、プロビット等のミクロでよく使われるアプローチを学んで、んでもってパネルデータの特性について勉強して、さぁいよいよ計量分析だ、と思ったらミクロパネルデータは入手が難しくて自分の関心のある領域の分析ができなかったりする(らしい)。

自分はまだ、ミクロ計量分析の論文を理解できるレベルのリテラシーをつけるべく勉強している段階だが、そのうちもっときちんとやらなきゃなぁ。でも、私も、社会科学に関する哲学的な観点からは、この種のアプローチ(の一種)に違和感を感じることはある。

思うに、テクニカルな部分はミクロ計量から多くのことを学べるが、これらの分析から導き出される規範的要素を含む政策提言については、しらずしらずのうちに著者の社会的規範や社会的常識が滑り込む場合がある。そういうものを嗅ぎ分けるには、テクニカルな計量分析の訓練だけでは不十分だろう。何事もバランスが大切だ。

下の本は、上記の研究プロジェクトを行っている研究者の過去の仕事。