研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

[地方財政][学問]第76回地方分権改革推進委員会メモ

第76回 地方分権改革推進委員会
http://www.cao.go.jp/bunken-kaikaku/iinkai/kaisai/dai76/76gijishidai.html

資料、議事録ともに興味深く、勉強になる。

議論の要約は、下記ブログも参照↓
http://d.hatena.ne.jp/sunaharay/20090408/p1

しかし、田近氏の資料のP.6およびその元となっている田近・宮崎(2008)論文の分析結果の解釈、したがってそれに基づいた田近氏の主張については、慎重に検討する必要がある。

田近氏資料のP.6では「交付税地方税収確保の努力を阻害している」というタイトルの元、地方税比率と普通交付税比率の負の相関図が掲載されている。そして、議事録では、田近氏の説明コメントとして、この図について以下のように記載されている。

ここで申し上げませんが、交付税依存をしていればしているほど税収が上がっていない。もちろん、税収がないから交付税依存しているのだろうという逆の関係もあるので、結論はそう簡単にはいえませんが、論文ではそうした問題にも対処した結果として、交付税への依存が高まると、税収が減ると指摘します。

(議事録の8ページ)

ここでいう「論文」とは下記論文である。

田近・宮崎(2008)「地方交付税地方自治体の財政改善努力―全国市町村データによる分析―」会計検査研究 No.38
http://www.jbaudit.go.jp/effort/study/mag/pdf/j38d03.pdf

本論文の分析では、被説明変数を1人当たり税収(地方税、個人住民税、法人住民税、固定資産税、都市計画税)とし、説明変数としては交付税比率の1期ラグの他に、コントロール変数として、人口(対数)、人口(対数)の2乗、面積(対数)、15歳未満人口比率、65歳以上人口比率、第2次産業従業者比率、第3次産業従業者比率を用いている。分析は1980年から2000年まで(5年刻みの5期分)の市町村パネルデータを用いて行われ、交付税比率の1期ラグの係数は、都市計画税のモデル以外で全て1%有意水準で負に有意との結果になっている。

論文では、1人当たり税収と交付税比率の内生性(ここでは逆の因果)に対処するために交付税比率を1期ラグとしたとしているが、注記されているように、1期前の税収水準は、1期前の交付税比率と強い負の相関があり、今期の税収水準とも強い正の相関があるのは明らかなので、他の説明変数で税収水準の決定要因を適切にコントロールできなければ、(歳入確保努力のインセンティブとは無関係に)交付税比率の1期ラグと今期の税収水準の間には当然強い負の相関があることになる。

そして、実際にコントロール変数として用いている人口、面積、人口比率、産業比率だけで1人当たり税収の主要な決定要因をカバーしているとは考えにくい。従って、交付税比率の1期ラグの説明変数は、「歳入確保努力のインセンティブ」を示す代理変数ではなく、コントロール変数では説明しきれない市町村の経済格差などの代理変数として機能していると考えたほうが自然なのではないか。

地方分権改革推進委員会の議事録においても、露木委員に

「私の実感から言うと全く違って、交付税が減るから云々ではなくて、より確実な交付税に頼らない税収がほしいというのが地方自治体を運営する人にとっては強烈なインセンティブなのです。少なくとも開成町の実情から言えば、田近教授の認識は違うというのが1点あります。」

と反論されている。

追記:実際、本論文と同内容の論文を掲載している宮崎氏の博士論文の審査報告書でも、「自治体間の経済力格差が、十分にコントロールできていない可能性がある」と指摘されていた。


関連エントリ:

地方分権ナショナルミニマムメモ(*追記あり
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070506#p1
お勉強メモ:地方交付税には「ソフトな予算制約」効果はあるのか?
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070506#p2
地方分権改革推進委員会メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090222#p1