研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

飯田・風間対談メモ:経済学のセールスのために

先日のエントリで紹介した飯田氏の本を読むのはめんどくさい/時間がないという人のために。

勝間和代のBook Loversを聴いた その2
http://since20080225.blogspot.com/2009/09/book-lovers2.html

ただ、「経済学セールスマン」(実際そういう貢献をされていると思うが)ならば、冒頭の以下のようなコメントは要らぬ誤解(ではないのかもしれないが)を生むので避けたほうがよいかもしれない。

特に機会費用という考え方が重要ですね。家で半日ぼうっとしているコストはどれくらいでしょう? お金を使わないのでコストゼロだ、と思ってしまうところですが、何か楽しいことをしたり、将来のために勉強したり、仕事をしてお金を稼いだりすることができたわけです。その実際の利益と実際には生まれなかった利益の差額が機会費用です。

ぼうっとすることにも効用(=利益)があるので、この言い方は経済学的にも正確ではない(追記:でもよく読むとぼうっとしていることに利益がないといっているわけではないので、誤解は招きやすいものの、「経済学的にも正確ではない」はいいすぎかも。しかも実際の発言ではもっと詳しくしゃべってるかも。だとしたらすみません)。これを読んだ素人の方(あるいは人文系学問が好きなかた)は、「経済学者は、ぼうっとしないで、『何か楽しいこと』や勉強や金儲けをしろといっている。よけいなお世話だ。」とか「経済学(者)は近代合理主義の虜だ」とか思って残りを読むのをやめてしまうではないか。

むしろ、「家で半日ぼうっとする余裕を持つためにこそ、世の中には経済学が求められている」とか言うほうがいいと思う。これでは機会費用の説明には使えないが。

飯田氏自身が下記エントリで「経済学者って何であんなに偉そうなんですか?」という質問に対して反省+考察しているが、そこで展開されている仮説よりも、上記のような書き方が、世の中の経済学嫌いを増やしてるのではないか。

経済学者って……
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20090407

アマルティア・センが経済学者としては例外的になぜ人文系にあそこまで好かれ、頻繁に引用されるのかというと、こういう書き方は絶対しないということもある。もちろんアマルティア・センは経済学の中でも倫理学・哲学に近い分野の専門だし、議論の内容も一般受けがしやすく(数理厚生経済学系の論文は別として)、経済学に対して一般の人や人文系の人がなんとなく抱いている違和感(それは上述の飯田氏の物言いに対する違和感と通じるところもあるかもしれない)に応えようとしているからこそ、非経済学者に人気があるという面も大きいだろうが。

なので応用マクロ計量という、一般の人からすると最もバリバリな経済学という感じの分野が専門の飯田氏は、どうしても(対人文系、対運動系の経済学セールス上は)分が悪いとは思うが、彼なら今後さらにセールスの腕を磨いてくれるに違いないし、その貢献もアマルティア・センが日本の論壇に与えた影響よりも大きくなったりして。


関連エントリ:
『脱貧困の経済学』+『税を直す』:所得税入門書としても読める。(追記1〜3あり)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090917
「経済成功って何で必要なんだろう?」&「差別と日本人」
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090629#p1