研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:鈴木亘(2009)「財源不足下でも待機児童解消と弱者支援が両立可能な保育制度改革〜制度設計とマイクロ・シミュレーション」

鈴木亘氏の保育研究の最新版。ぱっとみ、いままでで一番包括的な感じ。価格設定を固定価格とするか、直接補助付きの自由価格とするかは、駒村氏などとは意見が分かれるところか。

鈴木亘(2009)「財源不足下でも待機児童解消と弱者支援が両立可能な保育制度改革〜制度設計とマイクロ・シミュレーション」(一橋大学経済研究所DP)
http://www.ier.hit-u.ac.jp/pie/stage2/Japanese/d_p/dp2009/dp459/text.pdf

要旨
本稿では、現在、改革論議が大詰めを迎えている保育制度改革について、経済学の観点から問題点を整理し、財源不足下でも待機児童解消と弱者支援を両立できる改革案を提案した。厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会が2009年2月に発表した第1次報告(「社会保障審議会少子化対策特別部会第1次報告−次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて−」)は、「保育に欠ける」要件の見直し、直接契約方式導入など、保育制度の歴史的転換点となる仕組みが取り入れられた。しかしながら、保育所の供給増を図る対策に関して具体性に欠け、需給調整の仕組みが欠落するなど、制度設計上、致命的な問題点を抱えている。


これに対して、本稿が示した改革案は、?「新認証保育所」による供給増、?原則価格自由化による需給調整、?利用者への直接補助による弱者対策、応能負担の維持を提案しており、少子化部会・第1次報告を補う現実的な改革案と考えられる。また、100万人の保育所利用者増を骨子とする「新待機児童ゼロ作戦」を達成するための公費財源は、厚生労働省が想定する認可保育所による供給増では、毎年約1兆4千億円の金額が必要と見込まれるが、本改革案では、ほぼその半額の7000億円程度で実行することができる。50万人の保育利用者増であれば、1千億円強の公費財源で達成可能である。本稿は、こうした公費を含めた具体的な改革後の姿を、未就学児童を持つ大規模家庭データを元にした、マイクロ・シミュレーションによって試算した。


今後の数年間のわが国の状況を考えると、人口減少・労働力減少が急速に進む中で、「団塊世代」が大量に年金受給者となるために、社会保障財政が益々逼迫してゆくことになる。また、少子化対策のターゲットであった「団塊ジュニア」と呼ばれる人口層が出産可能年齢を過ぎようとしている。こうした状況下で、急ぎ少子化対策・女性労働力増を進めようとするのであれば、「財源が無ければ何も改革しない」という従来の方針を改め、財源が少なくても直ぐに実行可能な対策を立案すべきである。