研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

地方分権改革推進委員会第4次勧告メモ

地方税もだが、特に地方交付税について、いったいどんなことを言うのだろうと前々から気になっていたのですぐにチェック。

http://www.cao.go.jp/bunken-kaikaku/iinkai/torimatome/torimatome-index.html

要約より抜粋。

地方交付税
地方税の充実により、財政移転が果たす役割はおのずと縮小。しかしながら、偏在性の少ない税目でも、自治体間 の財政力格差は拡大する方向であり、地方交付税の機能はより一層重要とならざるを得ない
(1)財政調整機能の充実
・ 国民への説明責任に配慮しつつ、地方六団体の「地方共有税」構想を土台にした制度改革を求める
(2)財源保障機能の再検討
・ マクロの財源保障の役割は、地方税の充実に伴っておのずと縮小
地方財政計画額と決算額との乖離の是正に取り組むべき
(3)地方自治体にとっての予見可能性・説明責任の向上
普通交付税の透明性・予見可能性の向上を図るべき。可能な限り新型交付税の比重を高めるべき
・ 法定率引上げにより財源不足額の解消・総額の安定化を図り、自治体の予見可能性を高めるべき
・ 「国と地方の協議の場」での地方財政計画・地方交付税総額などの意見交換を早急に慣行化すべき
特別交付税を説明責任の向上のため見直すべき

長いけど本文より抜粋。

地方交付税
地方交付税は、すべての地方自治体が一定の行政水準を維持し得るよう財源を保障する財源保障機能と、地方自治体間の財源の不均衡を調整する財政調整機能と、二つの機能を有している。


現在は、「国と地方の税源配分」の比率と「国と地方の最終支出」の比率の差を、国からの財政移転(地方交付税及び国庫補助負担金)で穴埋めしているが、抜本的税制改革において地方税の充実が図られた場合には、この財政移転が果たす役割はおのずと縮小し、その総額の比重はその限りで縮小するものと考えられる。

しかしながら、地方税の充実が図られると、その充実を極力偏在性が少ない税目で行った場合であっても、自治体間の財政力格差は拡大の方向に向かわざるを得ないので、どの地域に暮らしていても勇気と希望がもたらされる豊かで活力のある自治の実現に向け、地域間の財政力格差を是正する必要があることを考えれば、地方交付税の機能はより一層重要にならざるを得ないと考えられる。


(1)財政調整機能の充実の重要性
現行の地方交付税制度は、国税として徴収した税収の一部をまず一定の法定率に従って国と地方とに配分する垂直的財政調整方式に立っている。地方六団体はこの現行地方交付税制度に一部修正を加え、地方交付税として地方に配分される法定率分を「交付税及び譲与税配付金特別会計」に直入することによって、地方交付税がもともと地方の財源であることをこれまで以上に明確にしようとする「地方共有税」構想を提言している。当委員会は、この「地方共有税」構想について議論した結果、最終的な結論は得られなかったものの、これは真剣な検討に値する構想ではないかとする意見が大勢を占めた。

これに対して、かつての地方分権改革推進会議は、同じく財政調整の強化の観点から、地方税として徴収した税収を地方自治体間で調整する、新たな水平的財政調整方式の導入について検討し、その一つの具体案として「地方共同税」構想を提言した。そこで、当委員会はこの「地方共同税」構想についても議論を行ったが、この構想には、財源を拠出することとなる財政力の強い地方自治体にあっては、自らの行財政運営に必要な財源として住民に課税し徴収した地方税収入の一部が結果的に他の地方自治体の行財政運営に充てられてしまうことになるという点において、受益と負担とが乖離してしまい、その住民の納得を得ることは難しく、地方自治体の徴税意欲も損なわれるのではないか、また、これを導入してみても、47 にも及ぶ都道府県と1770 有余の市区町村が現存する地方自治制度のもとで、財政力の強い少数の地方自治体と財政力の弱い多数の地方自治体との間で双方が納得する財政調整の合理的なルールについて合意を形成することは不可能に近いのではないか、とする意見が大勢を占めた。

地域間の財政力格差の是正を図り、どの地域に暮らしていても豊かで活力のある自治を享受できるような仕組みを構築する観点からも、現在の地方交付税制度が有している財政調整機能は重要であり、むしろその強化が図られるべきである。したがって、当委員会としては、地方六団体が提唱している「地方共有税」構想を土台にして、地方交付税制度の改革論議を深めていくことを、政府に求めたい。なお、その際、国の主要税目の状況に関して国民から見た一覧性を確保する工夫や、「交付税及び譲与税配付金特別会計」の収支内容について国民に分かりやすく説明するという点にも配慮すべきである。


(2)財源保障機能の再検討
財源保障機能については、地方財政が計画的運営を維持するために必要な財源を国全体として保障するマクロの財源保障機能と、個々の地方自治体が法令等に基づく事業を始めとして一定水準の行政の計画的運営を行えるように保障するミクロの財源保障機能とがある。

地方交付税によるマクロの財源保障の役割は、地方税の充実に伴っておのずと縮小し、その総額の比重はその限りで縮小するものと考えられる。

なお、投資単独事業の決算額地方財政計画額を下回っているのに対し、経常経費の決算額は逆に地方財政計画額を上回っていた、いわゆる地方財政計画額と決算額の乖離の問題については、既にこれを是正する取組みが進められてきているが、乖離はいまなお解消されていないので、政府は今後とも引き続き、地方財政計画額と決算額との乖離を縮小していくよう、地方財政計画の策定に適切に取り組むべきである。


(3)地方自治体にとっての予見可能性・説明責任の向上
普通交付税については、算定の簡素化と交付税額の予見可能性を高めるために新型交付税が導入され、現在、基準財政需要額の約1割程度がこの新型交付税によって算定されている。

しかしながら、普通交付税全体としては依然として複雑で分かりにくく、総額及び地方自治体への配分額について予見が困難であるとの指摘や、公表されている算定基準が毎年度変わることが分かりにくい原因であるとの指摘もあるので、透明性を更に高めるとともに、地方自治体による予見可能性や国民への説明責任の向上を図るべきである。

そこで、新型交付税については、可能な限りその比重を高める努力をすべきである。

また、先に提言した地方交付税の法定率の引上げも、地方自治体による予見可能性を高める効果を持つ。毎年度引き続く巨額の地方財源不足に対し、一定のルールを設定して国と地方とでそれぞれ財源不足額を負担することとし、臨時財政対策債や特例加算等の暫定措置で対処する方策は、地方自治体にとって予見が難しい。地方の財源不足が10 年以上の長きにわたり続き、もはや恒常化していることにかんがみれば、地方交付税法第6条の3第2項の規定を踏まえ、法定率を引き上げ、財源不足額を恒常的に解消して中期的に総額を安定させることによって、地方自治体から見た予見可能性を高めるべきである。それは
また地方自治体の税財源基盤の安定化につながり、今後の地方分権改革の推進という大きな方向性にも適合する措置である。

さらに、先の第3次勧告のなかでその法制化を求めた「国と地方の協議の場」において、地方財政計画の策定とそれに伴う地方交付税の総額などについて、地方自治体の代表者と率直に意見を交換する慣行を早急に確立すべきである。

特別交付税については、本来の目的である災害や危機管理等不測の事態に備える意味ではそれなりの意義がある。しかし、必ずしも特別性がない財政需要に充てられている部分も多いとの指摘、また、算定要領等の基準はあってもその算定対象の性格などから不透明さが残るとの指摘もあるので、説明責任の向上の観点から、その見直しを検討すべきである。

最初要約を読んで、これで本当に委員全員が意見一致したのだろうかと思ったら、案の定一番下に「なお、交付税の法定率引上げ、国・地方の税源配分、地方共有税について意見が異なる委員一名から出された補足意見を勧告に添付している。」の文言があり、見てみたところ、井伊委員が反対意見を表明している。猪瀬委員は特に何も言っていないみたいだけど、これは東京都副知事の立場もあるのだろうか。それかそもそも財源の部分にはあまり興味がないのかも。議事録をちゃんと読めばわかるのだろうが。

井伊委員の意見は、「地方税財源の充実確保のための3つの基本原則の確認」、「法定率引き上げへの反対意見」、「税源配分「5:5」への懸念」、「地方共有税の特別会計直入への反対意見」の4つだが、現行の地方交付税に直截関わるのは「法定率引き上げへの反対意見」および「税源配分「5:5」への懸念」の部分であり、内容は以下のとおり。

2.法定率引き上げへの反対意見

  • 厳しい経済環境によって大幅な国と地方の税収減が予想される状況への臨時的対応策の手段に、中長期的な政府の意思決定に関わる法定率の引き上げを割り当てるのは適切ではない。
  • 赤字国債の発行額が市場に影響を与えかねない最近の状況において、国の財源減少を意味する法定率の引き上げを勧告することは、市場に不測の影響を与えかねない。
  • 国庫補助負担金について現在以上の削減が難しい中で、税源移譲によって地方財政の総額を増加させる一方、交付税の法定率引上げ等によって地方交付税の拡充、強化も志向することは、地方財政の大幅な拡大を意味する。両者を両立させるためには、大増税が必要となるが、そうしたスタンスを委員会が提示していることになる。
  • 法定率を引き上げても、経済変動による交付税原資の税収は大きく変動するので、交付税総額は安定化しない。逆に、法定率が高くなるほど変動の幅が大きくなるという問題がある。

3.税源配分「5:5」への懸念

  • 現状、国と地方の税源配分は「6:4」となっており、その内訳は、国税4:交付税2:地方税4である。税源移譲「5:5」を志向するということは、地方税を増加させる一方で国からの財政移転である地方交付税が縮小することであり、その結果国税4:交付税1:地方税5になる。第1次勧告ではそういう理解であった。しかしながら、今回の第4次勧告に向けた議論では、国税3:交付税2:地方税5とも受け取れる主張がなされた。地方の税源を増やしながら国からの財政移転は縮小せず、それをバランスさせるために国の財源を減らすような、国の財政の持続可能性を考慮しない考え方は適当ではない。国の財政収支が悪化すると国債金利が上昇し、地方債金利も必ずや上昇することとなり、地方財政を逆に悪化させて、地方分権改革の妨げとなる。
  • 地方交付税がもともと地方の財源であることを明確にする「地方共有税」を志向する一方で、形式的な税源配分「5:5」を志向することは、矛盾するのではないか。「地方共有税」分は地方の税源にカウントするべきであり、そうすれば税源配分は「4:6」となり既に「5:5」を達成していることになる。

今後民主党政権でここらへんの議論がどう動いていくか要注目。