優生学と財政学再論
といってもべつに再び論じるわけでなく、いつもどおり再びメモするだけですが。。。
今日、微妙に重なる部分がある2つの議論を読み、久しぶりに考えた。
一つ目
医療費増、経済にプラスも(岩本康志氏)
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/iwamoto/01.html元ネタの一つはここ?(最新バージョンではなさそう)
Fukui&Iwamoto(2004)Medical Spending and the Health Outcome of the Japanese Population
http://www.esri.go.jp/jp/prj-rc/macro/macro15/06-1-R.pdf
二つ目(1年以上前でのブログでのやりとり。うかつにも気がつかなかった)
QOLでなくQODを語るべき時 - 書評 - 日本人の死に時(dankogai氏)
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51054104.html介護を考える光(bewaad氏:dankogai氏への応答1)
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20080523/p1介護を考える影bewaad氏:dankogai氏への応答2)
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20080518/p1
ちなみに、二つ目のブログやりとりを今頃見つけたのは、himaginary氏の以下のエントリの注経由。
経済学者は感情で動く
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091118エントリの内容とは直接関係ない注だが、「ただ個人的には、実際にナチスに喩えるべき妄言を唱える人間も世の中にはやはり存在するので(たとえばこれ)、上記の解釈がそうした人たちに悪用される可能性については注意を払うべきかと思う。」とdankogai氏に手厳しい。
dankogai氏への批判は、bewaad氏が優生学の説明(http://homepage2.nifty.com/etoile/hansen/03eugenics.html)を引きながら応答しているのでそれを見てもらうとして、こういう繰り返しでてくる優生学的言説・感覚を断固拒否すること(私の規範的立場もhimaginary氏のそれと近く、dankogai氏の発言は感情的に「妄言」と切って捨てたいところである)は比較的たやすいものの、上記の岩本氏論文のようなよりアカデミックな実証研究の背景にある優生学的(?)設定をどう受け止め、QALY(Quality Adjusted Life Years)やDALY((isability Adjusted Life Years)のようなQOLの経済評価手法に代わる評価手法はどうあるべきかと冷静に考えなければならないのはなかなか難しい。
そもそも多くの医療行為そのものに、障害・要介護状態になることを回避し、そういう状態ではない「健康」を実現することが目的として内包されているわけだから、QALYやDALYをもってして「重度障害者や重度要介護者のQOLが健常者の0.8掛けとか0.5掛けになるように設定されており、優生学的だ」という批判はその通りだと思う一方(そういう批判は、たとえばここhttp://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55315756.html)、障害・要介護状態となることを回避することを目的とした医療行為の効果を計るあり方としては一定の妥当性を有しているようにも思われる。
しかしこれを一定の妥当性があるといってしまうと、限られた資源・財源を有効に使うために老人は死んでくれというdankogai氏の言説を肯定することともどこかで繋がってしまうのではないか、という感覚もある。じっくり考えれば繋がらないのかもしれないが。
こういうこんがらがった話はいろんなところで議論されているので(例えばSocial Science and Medicineというジャーナルにはこういうトピック関連の論文がたまに載っているし、日本でも有名どころでは立岩先生などが独自の思索を展開しているはず) 、まずは先人のお知恵拝借ということで自分は思考停止していて知識の補充すらしていないのだが、自分がいつかこういう領域に手を染める可能性がないわけではないのでメモ。というか、一度手を染めかけてかなり中途半端なところで止まっている。ごめんなさいajisunさん。
参考リンク:
・QALYについての概論は例えばここ
http://www.csp.or.jp/cspor/upload_files/arch_71.pdf
・DALYはあんまりいい解説みつからなかったが、例えばここ
http://wiki.livedoor.jp/jaih/d/%be%e3%b3%b2%a4%f2%c4%b4%c0%b0%a4%b7%a4%bf%c0%b8%c2%b8%a1%ca%bf%cd%c0%b8%a1%a6%c0%b8%cc%bf%a1%cb%c7%af%bf%f4
関連エントリ(どれも古い):
「スパゲティ症候群」について
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060414#p1
健康経済学とQOL
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060410#p1
優生学と財政学
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050525#p1
参考文献(昔いろいろ読んだのだけど、中身かなりわすれたー)
Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes
- 作者: M. F. Drummond,Mark J. Sculpher,George W. Torrance,Bernie J. O'brien,Greg L. Stoddart
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
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Economic Evaluation in Health Care: Merging Theory With Practice
- 作者: M. F. Drummond,Alistair McGuire
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Cost-Value Analysis in Health Care (Cambridge Studies in Philosophy and Public Policy)
- 作者: Erik Nord
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
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Public Health, Ethics, And Equity
- 作者: Sudhir Anand,Fabienne Peter,Amartya Sen
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- 作者: Marthe R.Gold,池上直己,池田俊也,土屋有紀
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- 作者: 池上直己,下妻晃二郎,福原俊一,池田俊也
- 出版社/メーカー: 医学書院
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