研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

「社会保障の財源どうする?」『産経新聞』7月10日(権丈氏(慶応大)V.S峰崎氏(民主党参議院)+北欧の所得税改革メモ

社会保障の財源どうする?」『産経新聞』7月10日(権丈氏(慶応大)V.S峰崎氏(民主党参議院
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/09/07/090710sankei.pdf

面白いのは、別に意見対立しておらず、税制、無駄の削減、社会保障、年金、ほぼ全ての項目で意見が一致しているということ。峰崎氏のいう所得税の課税ベースの拡大を主軸とした税制改革は、権丈氏も概ね同意するのではないか。なぜなら、以下のように権丈氏は、「90年代に所得税最高税率が引き下げられた。 これを以前の水準に戻して社会保障の財源確保を!」(立岩本や飯田・雨宮本も確かそういう方向性でしたね)という考えに懐疑的なわけだし、「サラリーマン増税」に肯定的なわけだから。

消費税と所得税、僕はどっちでもいいですけどね――政治家さん達は、どうぞ政治リスクをご勘案下さい
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare199.pdf

民主党は公約で消費税はあげないっていっているので、増税については峰崎氏の描くようなシナリオが現実的なのだろうか。

ちなみに、私も全然詳しくはないのだけれど、スウェーデンをはじめとした北欧諸国の所得税は、1980年代後半から1990年代前半の税制改革の中で、アメリカの1986年のレーガン税制改革の影響を受けつつ、課税ベースの拡大と限界税率の引き下げという形で行われた。これは「北欧諸国における総合所得税から二元的所得税への移行」ということで、税制の研究者でよく知られた事実のようだ。

Sørensen(1994)From the global income tax to the dual income tax: Recent tax reforms in the Nordic countries
http://www.springerlink.com/content/u02u78n827763542/

ソレンセン他(1998>2001)『北欧諸国の租税政策』(なぜかはまぞうでは見つからず)
http://www.amazon.co.jp/%E5%8C%97%E6%AC%A7%E8%AB%B8%E5%9B%BD%E3%81%AE%E7%A7%9F%E7%A8%8E%E6%94%BF%E7%AD%96-%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81-%E3%82%BD%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3/dp/489032111X

このような改革の結果、例えばスウェーデンでは、多くの人(1991年の改革当初でたしか80%くらいの人)が平均30%くらいの比例所得税地方税)しか払っておらず、一定額を超える所得者が、追加的に(たしか)20%の所得税国税)を払うという仕組みになった。(追記:その後、さらに一定額を超える所得にかかる国税の限界税率は25%になったのであった。すっかり忘れていて、すみません。)

つまり、たんに所得税率という点では、我々日本人が北欧に対してイメージするような急進的な累進構造はもやは存在しない。ただそれでも、以下の研究によると日本よりもスウェーデンのほうが所得税の累進性は高いみたい。

松田有加(2005)二元的所得税における税負担の累進性ースウェーデンを素材としてー
http://mba.nucba.ac.jp/cic/pdf/njeis492/23matsuda.pdf

でも自分もいい加減、もう少し数字的なところで日本の所得税の実態をフォローしないと。