研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

新宿区の障害者自立支援給付「水際作戦」メモ

ajisunさんブログより裏側を見ていたが、どうやらTBS・毎日系列を中心に報じられ、厚生労働省が実態調査に乗り出すというニュースも。

篠沢教授の活躍(What’s ALS for me ?)
http://d.hatena.ne.jp/ajisun/20100202

TBSの取材に新宿区区長謝罪(What’s ALS for me ?)
http://d.hatena.ne.jp/ajisun/20100203

障害者自立支援給付:新宿区が「65歳以上認めず」の内規(毎日新聞
http://mainichi.jp/life/health/fukushi/news/20100203ddm041100059000c.html

障害者自立支援法で定められた居宅介護などの自立支援給付について、東京都新宿区が昨年10月以降、65歳以上の障害者から新規申請があっても認めないよう内規で定めていたことが分かった。厚生労働省は実態に応じて同給付と介護給付の両方適用するよう求めており、区は「不適切だった」と認め、2日、措置を撤回した。

テレビ番組「クイズダービー」で活躍した篠沢秀夫学習院大名誉教授(76)と妻礼子さん(69)が1月に自立支援給付の申請について相談した際に断られ、内規が発覚した。篠沢名誉教授は昨年2月に進行性の難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症」(ALS)と診断され、既に介護給付を受けていた。

厚労省の07年の通知などによると、65歳以上の障害者は、介護保険制度のサービスを受けるのが基本だが、介護負担が大きい場合などは、生活の手助けや補装具費補助などの自立支援サービスも受けることができる。

だが区は昨年10月、「対象者が増えると事務作業などの面で処理しきれなくなる」と自立支援給付の運用ルールを改定していた。

厚労省障害福祉課は「障害者自立支援法は、自治体は申請があれば面接を行い調査したうえで支給の是非を決めるよう定めている。新宿区の対応は法律違反の可能性もある」と指摘している。

(中略)

 篠沢名誉教授はALSを患い、昨年4月に気管を切開し、たんの吸引など24時間介護が必要になった。自宅介護で、礼子さんが夜中2〜3時間おきに吸引しなければならない。

 礼子さんは1月、自立支援給付について区に相談したが、断られた。「とにかく新規は受け付けないととりつくしまがなかった。職員は『障害者が増え、税金で賄いきれない』と言った。まるで障害になるのが悪いようだった」と憤る。

 区から2日、謝罪申し出を受け、礼子さんは「ほっとしています」と笑顔に。篠沢名誉教授は「家内が僕の介護で疲れ果てているのが、一番心配していることです。介護士に助けていただければ幸いです。妻に遠慮し(トイレなど)ガマンしていたのです」と紙に感想を書いた。

新宿区が障害給付の申請拒否で謝罪(キャリアブレイン)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/26179.html

東京都新宿区は2月2日、65歳以上で障害者手帳を取得した人が、介護保険から給付されるサービスに追加して、障害者自立支援法から給付されるサービスを利用することを拒否する「独自ルール」を昨年10月から運用していたとして、区民に対しホームページを通じて謝罪した。

(中略)

同区の障害者福祉課によれば、障害者自立支援法がスタートした2006年4月から昨年9月までに、介護保険を利用した上で障害給付も上乗せして利用するケースが6件あったが、昨年10月からはそのような申請を拒否していたという。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、介護保険の給付でヘルパーを利用していた学習院大の篠沢秀夫名誉教授が、障害給付によるサービスを追加しようと、昨年11月に同区に申請を行ったが、同区は申請を断った。

障害者福祉課では、07年3月に厚生労働省が出した通知「障害者自立支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」への対応について内部で検討したところ、障害の内容が特定されていないことなどから、「対象者が増えてしまうことで、とても対応できない」と判断。「65歳以上は介護保険が優先されることから、65歳以降に障害となった人はお断りをして、対象を絞り込みたいということがあった」としている。

(中略)

厚労省自治体の障害給付で実態調査(毎日放送
http://www.mbs.jp/news/jnn_4348472_zen.shtml

東京・新宿区が65歳以上の障害者に対し、新たな障害給付の申請を一切、認めていなかったことがJNNの取材で明らかになった問題を受け、厚生労働省は、他の自治体でも同じような扱いが行われていないか、実態調査を開始しました。

(中略)

これを受け厚生労働省は4日、新宿区と同じような対応が他の自治体でも行われていないか実態把握を行うため、全国の市区町村に対し、調査を指示しました。

問題発覚後、長妻大臣は「新宿区の対応はまずかったのではないかと認識している」としていて、厚労省では同様の対応が行われている自治体に対し、改善を指導する方針です。(04日14:38)

障害当事者団体などが障害給付の地方分権化(例えばちょっと前に大きな反対運動があった一般財源化など)に強く反対する背景にはこういう自治体裁量による給付抑制がある。新宿区でこれだから、田舎のほうはどうなってるんだろう。

地方分権が進むことによる障害当事者団体にとってもう一つの問題は、地域間格差の拡大のみならず、例えばこういう問題が起きたときなどに、厚生労働省の力を使って自治体にプレッシャーを与えることができなくなる(やりにくくなる)こともあるだろう。

ここらへんの問題は、過去何度かメモったが、地方財政地方分権の観点からも興味深いので、もう少しまとめて調べたいところ。

あと、これも何回か書いているが、厚生労働省には、実態調査ももちろん必要だが、基礎統計の可能なかぎりの把握+公開もお願いしたい。何回か書いたが、支援費制度では中核市レベルまで公開されていた障害給付データが、自立支援法になって何にもなくなった(はず)。小規模市町村では個人が特定される可能性があるからデータ公開は難しいかもだが、ある程度の規模の自治体だったら問題なく公開できるはず。

これは自立支援法になって厚労省自身も統計把握が困難になっていると言う話を聞いたことがあるが、なんとかならないものか。わりと詳細なデータが入手できる介護保険とは雲泥の差。

ついでにajisunさんの本も宣伝。

逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズ ケアをひらく)

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