研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:障害者介護保障運動⇒その歴史⇒障害学と松井彰彦⇒福島智

1.障害者介護保障運動:最近の自治体交渉事例全国障害者介護保障協議会が運営している「全国障害者介護情報制度」というサイトがあり、「月刊 全国障害者介護制度情報」というのが毎月出ていて、メルマガも発行している。時に自治体との交渉過程などを詳細にレポートしているものがあり、とても勉強になる。自立支援制度下の介護サービス給付において、自治体にどのような裁量があり、自治体がどの程度県や国(厚生労働省)の方針を参照しているのか(していないのか)、それに対して障害者(団体)がどのように対応しているのかを垣間見ることができる。ここ数回、「政策研究集会報告」としていくつかの事例を紹介しているのでメモ。

「全国障害者介護情報制度」
http://www.kaigoseido.net/topF.htm

11月12月合併号http://www.kaigoseido.net/kaihoo/09/200911-12.htm
西日本の政令都市A市で24時間介護保障に
過疎地で介護事業所がない問題を解決した北海道の事例(政策研究集会報告)

1月2月合併号http://www.kaigoseido.net/kaihoo/10/201001-02.htm
北日本のZ村で24時間介護利用者の1人ぐらし支援と村との困難な交渉(政策研究集会報告)
都市部でも事業所が見つからなかったALS当事者の事例(政策研究集会報告)

3月号http://www.kaigoseido.net/kaihoo/10/201003.htm
政令指定都市A市での泊りがけの外出(重度訪問介護)が認められるまでの交渉経過
北関東のX市で24時間介護利用者の市との困難な交渉(政策研究集会報告)

「現場」から離れ、異国に行き、数式や統計ばかりいじっていると、数式が対象としている、あるいは統計の背後にある個々の現実や、政策が実際に人々に与える具体的な影響に疎くかつ無関心になりがちなので注意しなければならない。

文部科学省事業仕分けが博士課程やポスドクの人々の生活に与えている影響について、具体的な個別事例に言及しながら批判的に発言している研究者が何人もいる。これは将来的には他人事ではなくなるかもしれないので私も気になるトピックだ。だが研究対象である制度・政策について、同じように個別事例を把握している政策研究者はどれだけいるだろうか。自戒をこめて。個別事例が直接の研究対象ではなくても、個別事例について何を知っており何を知っていないかで、研究関心・方法・結果が変わってくることは当然あるだろうし。

2.障害者介護保障運動の歴史:介護保障要求者組合と介護保障協議会ついでに、運動体としての「全国障害者介護保障協議会」は、名前はごく普通だが、興味深い歴史的背景がある。ネット上の良いリソースは見当たらないが、やはり個人的には、1990年代に、自立生活運動方面の障害者運動の日本土着の(?)草分けである「全国公的介護保障要求者組合」から「全国自立生活センター協議会」や「全国障害者介護保障協議会」などの自立生活センター(CIL)系が分岐して主流化していくあたりの過程が一番興味がある。

私がこの過程に興味を持ったのは、自分自身が学部時代に「全国公的介護保障要求者組合」系の団体で介護の仕事をしていた2003,4年くらいだと思うが、当時は「全国障害者介護保障協議会」については、本やネットから比較的詳しく知ることができたが、「全国公的介護保障要求者組合」およびそこから「全国障害者介護保障協議会」が分岐していった過程については断片的な情報しかなかった。それどころか、「全国公的介護保障要求者組合」それ自体の情報も少なかった。

現在は、立教大学の深田氏がこれに近いテーマを研究しているし、「全国公的介護保障要求者組合」のキーパーソンである新田勲氏やその妹の三井絹子氏(ともに全身性重度障害者)が本を出版するなど、手にすることのできる情報も増えている。「全国公的介護保障要求者組合」は最近ブログも立ち上げ、1994年以降の古い通信の目次も見ることができる。

「逃げられなさ」の位置をめぐって:全国公的介護保障要求者組合が訴えるもの(深田 耕一郎)障害学会第4回大会 於:立命館大学
http://www.arsvi.com/2000/0709fk.htm

また上記論文に関連すると思われる深田氏の論文「贈与を要求する――公的介護保障要求運動とはなにか」が『障害学研究』の第五巻にも掲載されている(未読)。

障害学研究5 (障害学研究)

障害学研究5 (障害学研究)

日本の障害者自立生活運動についてはこちらが詳しい。多くの当事者が寄稿している。
自立生活運動と障害文化―当事者からの福祉論

自立生活運動と障害文化―当事者からの福祉論

あとこちらの名著も忘れてはならない。
生の技法―家と施設を出て暮らす障害者の社会学

生の技法―家と施設を出て暮らす障害者の社会学

新田勲氏の著作
足文字は叫ぶ!―全身性重度障害者のいのちの保障を

足文字は叫ぶ!―全身性重度障害者のいのちの保障を

三井絹子氏の著作
抵抗の証―私は人形じゃない

抵抗の証―私は人形じゃない

「全国公的介護保障要求者組合」
http://youkyushakumiai.blog37.fc2.com/

3.障害学と松井彰彦:Research on Economy and Disability障害学で思い出したが、国際的なゲーム理論家である東大の松井彰彦氏が、最近障害学にコミットしており、松井氏が代表者でこんな研究プロジェクトをやっている。ほとんどフォローしていないが、いずれチェックしたい。

READ: Research on Economy and Disability
http://read.way-nifty.com/

ディスカッションペーパーもたくさんある。障害学畑の人もけっこう書いている印象。
http://www.read-tu.jp/dp/

松井氏もDP(未読)を書いていて、他のサイトには障害についてのエッセイも寄稿している。

Disability and Economy in Japan
http://www.read-tu.jp/dp/f09/f0911.pdf

「ふつう」のしくみと障害者
http://www.vcasi.org/column/ordinary-and-handicapped

前者のDP(そんなにテクニカルではなさそう)の引用文献には、kaneko-MatuiやAokiといった経済学の文献のみならず、バーンズのような障害学の文献やゴフマンなどの社会学の文献(ただ、ゴフマンなどはもともとの松井氏の専門的研究関心の範疇に入るだろうが)のみならず、エスピン・アンデルセンまで参照されており、私のように障害学や社会学、そして福祉国家論に強く惹かれつつも経済学にまた戻ってきた人間には興味深い。ただ松井氏の専門であるゲーム理論は、基礎レベルならともかく、最先端の研究としてはエスピン・アンデルセン以上に遠そうだけど。

ちなみにこれも未読だが、松井氏は上野千鶴子氏と中西正司氏と経済セミナーで障害者政策について対談しているようだ。中西正司氏とは、前述の深田氏の論文にも登場するように、自立生活センター(CIL)系の介護保障運動を引っ張ってきた人である。それにしても改変後の経セミは面白い組み合わせの対談ばかりやっている。

経済セミナー8/9月号「福祉」を本気で考える:みんなが住みやすい社会へ
http://www.nippyo.co.jp/magazine/5103.html

経済セミナー 2009年 09月号 [雑誌]

経済セミナー 2009年 09月号 [雑誌]

松井氏の本:最初のは高度な専門書。ゲーム理論が専門の人でないと読みこなすのは難しいと思う。真ん中はゲーム理論を軸にしたミクロ経済学の教科書。自分も学部の初級ミクロの授業でお世話になった。最後は最近出版された話題の新書。

慣習と規範の経済学―ゲーム理論からのメッセージ

慣習と規範の経済学―ゲーム理論からのメッセージ

ミクロ経済学 戦略的アプローチ

ミクロ経済学 戦略的アプローチ

高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)

高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)

上野千鶴子氏と中西正司氏の共著・編著
当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

4.福島智また、この記事書きながら検索してたら、障害学研究者で、目が見えず、耳が聞こえない東大教授の福島智氏が爆笑問題の番組に出演していたのを知ったのでそれもついでにメモ。

爆笑問題のニッポンの教養
http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20090609.html

福島 智(arsvi.com)
http://www.arsvi.com/w/fs02.htm
福島智さんのこと ―知ってることは力になる・19―(立岩真也
http://www.arsvi.com/0w/ts02/2001033.htm

追記:1だけ書くつもりが、いくつか芋づるでメモしたので4つに分けた。