研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

「成長のための負担増」

「成長のための負担増」は日本でも定着するのか?『週刊東洋経済』2010年4月24日号
http://kenjoh.com/10/04/100424toyokeizai.pdf

権丈氏の影響が、権丈氏のコメント以外の記事全般に、かなり色濃く感じられる。政府の規模、税制、社会保障のあり方についての現状認識や将来イメージのスナップショットについてはかなりの部分が同意なのだが、この記事では、現時点での負担増が(特に短期的に)マクロ経済に与える影響についてはあまりわからないのが残念。

負担増が経済成長に与える影響についても若干書いてあるが、割と素朴なマクロ経済観に則ったもので、実証的な根拠がきちんと示されているわけではない(これは逆のことを言う人も同じだったりするが)。

個人的には、負担増が長期的にマクロ経済に与える影響については楽観的なのだが(これも学術的に結論がでているわけではないと思うが、少なくとも北欧が長期的に停滞しているという歴史的事実ははないし、いくつかの国パネルデータの分析や歴史分析も問題なしといっている。当然、問題あり=負の因果関係ありといっているのもあるが、まぁ負担増でお国がぼろぼろになるというわけではないだろう。)

でも短期的にはどうなのだろう?強いネガティブショックがあって自殺者が増えるからダメという人もいるけど、それはどの程度の確からしさなのだろう?もちろん、増税しなくても歳出削減で介護地獄で殺人増えるかもだけど。

この短期的な影響が(時事的には)とても気になっていて、もしマクロ経済的にもOKならばさっさと所得税制立て直しつつ消費税増税すべしと思うのだが、マクロに疎い自分には判断つきかねる。もちろん私が判断つこうがつきかねようが、特に何かが変わるわけではないが、マクロ経済も切迫、財政も切迫、社会保障も切迫、というときに、どこにトレードオフがあって、どこにwin-winの関係があるかもよくわからないというのはもどかしい。

それにしても、マクロ経済学が対象にする時事問題についての経済学者の見解のばらつきは、ミクロ経済学が対象とする時事問題についての経済学者のばらつきよりも、いろいろな意味でずっと混沌としている気がする。

関連エントリ(目に付いたもの、まとめてコピペできたもの)

しかしこのネタは、自分の関心も高いからか、メモみたいなのいっぱい書いてるけど、長期的なビジョンは割と明確でも、短期のマクロ経済についてよくわからなければ、今の時点でどうするのが望ましい、とかは全く分からないな。残念。


「もはや政府の財政だけでは賄いきれないのは明白」かもしれないが。
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100209#p1

「大きい社会」を支える政府のあり方についてメモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090425#p1

メモ:「小さな政府」、「大きな政府」、「社会保障の負担/給付」に関する国民意識
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090908

社会保障の財源どうする?」『産経新聞』7月10日(権丈氏(慶応大)V.S峰崎氏(民主党参議院)+北欧の所得税改革メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20091123#p1

財政負担と経済成長(追記あり
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20080907#p1

『脱貧困の経済学』+『税を直す』:所得税入門書としても読める。(追記1〜7あり)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090917

「経済成功って何で必要なんだろう?」&「差別と日本人」
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090629#p1

消費税の逆進性と再分配効果について
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20071202#p1

メーデー雑感+加藤淳子(2003)『逆進的租税と福祉国家
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060502#p1

大きな政府」なら「逆進課税」、「小さな政府」なら「累進課税」というビジョンになる?「大きな政府」派の主張。(上記エントリの続き)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061026#p3

『自分用メモ:政府税調の所得税増税案に対する社説とか政党の反応とか』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050703

『平成17年度 年次経済財政報告』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050819

『歳出改革による痛み』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050923

『『税のはなしをしよう。』をネタに社会保障と財政について考える。』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20051108

『mojimojiさんの議論を読んで』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20051116

『「小さな政府」は国民に支持されているのか?』

http://d.hatena.ne.jp/dojin/20051228

『歳出削減』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060215#p1

『左派こそが、財政・税制をきちんと勉強しなければならない。(追記:政府税調最新情報)』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060218#p1