研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:筒井淳也「福祉国家に対する冷静な視線――福祉レジーム論とジェンダー」

福祉国家に対する冷静な視線――福祉レジーム論とジェンダー(1) 筒井淳也
http://synodos.livedoor.biz/archives/1484918.html
福祉国家に対する冷静な視線――福祉レジーム論とジェンダー(2) 筒井淳也
http://synodos.livedoor.biz/archives/1484924.html

勉強になる良記事。私も筒井氏が(1)で指摘しているような(日本の)社会学における福祉国家論・福祉レジーム論の不在を偉そうにメモっていたことがあるが、そういうディレッタント的な事柄にとどまらず、(2)では、最近の研究成果に基づいて、「北欧諸国の女性の労働参加度合いや社会的地位は、かなりの部分両立政策ではなく公的部門における女性の雇用によって説明できてしまう」ことや「北欧型の社会民主主義ジームにおいても『脱商品化』と『女性の自立』の対立は解消されていない」という興味深い知見が述べられている。参考文献をどこかに挙げてくれるとなお一層ありがたい。

今後、日本でもこういう福祉レジーム論の理論概念と実証分析の蓄積に基づいた政策分析ができる社会学者がもっと増えていくと、日本の政策論議の水準も一段上がると思う。特に、「脱商品化」、「階層化」、「脱家族化」などのエスピン・アンデルセン以降の福祉レジーム論で使われる福祉のアウトプットの計測に使われる社会学的諸概念は、経済学ではなかなか得られない有益な知見を与えてくれるように思う。

ついでに、筒井氏は「多くの社会学者は政府と市場の関係に無関心であった」と述べている。話はやや非生産的な方向にずれるかもしれないが、これに関連して、分析枠組みとしての「階級」概念(「階層」ではない点に注意)を打ち捨てた日本の社会学者にエスピン・アンデルセン福祉国家論・福祉レジーム論を理解できるわけがないという私の元師匠の見識は、ややディレッタント的だが、日本の社会学史あるいは知識社会学的に依然として興味深い。日本の社会学者は(全てではないにせよ)、「一億総中流」論を批判するどころか、それに加担したという側面もあるわけだし。

(ちなみに、日本のメインストリーム社会学におけるエスピン・アンデルセンの受容のあり方は、下記関連エントリで紹介している富永健一氏の本などが分かりやすい事例だと思う。もっと最近の社会学者はどうなんだろう。)

関連エントリ("エスピン・アンデルセン"で過去エントリを検索):
富永健一(2001)『社会変動の中の福祉国家 家族の失敗と国家の新しい機能』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050314#p1

子育て支援と子どもの福祉メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060228

日本の左翼は何を学べばよいのか。
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061016#p1

『福祉社会の価値意識 社会政策と社会意識の計量分析』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070201#p3

フローレンスモデルについてのメモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070523

イギリス社会学の伝統を踏まえた実証的貧困研究と日本の「主流派」社会学におけるイギリス社会学の不在
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20081220#p2

経済学と社会学の幸福な協働
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090119

東アジア福祉国家論メモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100226