研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

『療養病床削減に2000億円・社会的入院解消へ重い先行費用(日経新聞)』+介護給付費について

http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S3003F%2016072006&g=MH&d=20060717

先の通常国会で法律が成立した医療制度改革の柱である「社会的入院の解消」の実現へ向け、2000億円規模の公費支出が必要になる見通しとなった。長期入院の高齢者が入る療養病床削減に伴い、家庭に戻れない高齢者の受け入れ先を確保するのが狙い。病院を介護施設などの居住施設に転換することを公費で支援する。ただ、負担を求められる健康保険などが反発する可能性もある。

 医療制度改革は医療費抑制が大きな目的の一つだが、改革実現のために「先行費用」とも言える新たな公費が必要になることが判明した格好。療養病床は医師や看護師の配置が一般の病床より少なくて済み、「これまでに多くの収益を上げてきた」との指摘もあり、そうした病院への公費助成そのものに異論が出る可能性もある。

紙(7/17日(月)朝刊)のほうにはもう少し詳しく書いてあり、図もある。文章で説明すると、こんな感じだ。

「療養病床再編のイメージ」

現状
医療保険を適用(25万床)
介護保険を適用(13万床)

2011年度末
老人保健施設、ケアハウス、在宅療養支援拠点などに転換(23万床)
医療保険を適用(医療の必要度の高い人に限る(15万床)


この流れは、去年暮れの「介護療養廃止」の続きである。復習のために当時の記事を載せておこう。

介護療養型医療施設、2011年度末に廃止(2005年12月22日 読売新聞)』

厚生労働省は21日、介護保険が適用される「介護療養型医療施設」を、2011年度末で廃止する方針を明らかにした。医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占め施設が老人保健施設や、医師の配置が義務づけられていない有料老人ホームなどへ徐々に転換できるようにする。12年度以降は、介護保険が適用される入所施設は特別養護老人ホーム老人保健施設の2類型となる。

 一方、厚労省医療保険適用の療養病床についても介護施設などへの転換を促す方針。医療の必要性に応じて診療報酬に差をつけることなどを検討している。

簡単に説明すると、介護保険の「施設サービス」には「介護老人福祉施設サービス(いわゆる特別養護老人ホーム)」「介護老人保健施設サービス」「介護老人療養施設サービス」の三つがあり、大雑把にいうと最初から順に「生活」色から「リハビリ」「医療」色が強くなる。そしてややこしいのだが、一方の「居宅サービス」にはホームヘルプやデイケアなどの通常の「居宅サービス」に加えて「認知症対応型グループホーム」や「特定施設入所者生活介護」(有料老人ホーム)などの「施設サービス」も含まれている。(*ただし今年の四月から、認知症対応型グループホームは「地域密着型サービス」のカテゴリーになった)

財政の観点から考えると、介護療養型施設の廃止は、それだけを見たら(比較的コストが安い他の二施設への転換や、家族や本人への負担の転嫁を通じて)介護保険財政の伸び率を抑える効果があるかもしれないが、今回の発表のように医療保険の療養をも「介護老人保健施設」やケアハウス(軽費老人ホーム)や有料老人ホームに転換していくなら、上記の図のように結局、介護保険からの給付(費)は増大する可能性が高い。その分、医療保険における医療療養への給付費が減少するか、給付費の伸びが鈍化するだろうけど。そしてもちろん、本来、生活の場ではない「介護療養施設」に比べれば、生活色が相対的に高い特養や老健、ケアハウスや有料老人ホームに住むほうが好ましいだろうけど。(*ただし実態がどうなっているのかは私にはわからない。それに受け皿がほんとうにあるのかという問題もある。)

しかし私が最も問題だと思うのは、要介護度4、5レベルの高齢者にとって、介護保険の居宅サービスは量的なレベルでまったく十分ではなく、今後も充実する見通しはほとんどないということだ。「施設から在宅へ」という介護保険のスローガンは、特に重度の要介護者にとっては現実味のあるものとは言えない状態が続いているのではないか。

ちなみに、厚生労働省は「介護給付適正化運動」を熱心にやっている。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/10/h1021-7.html

この「適正化」キャンペーンは、(不正給付追放と同時に)介護保険開始後に特に急増した要支援や要介護度1の「居宅サービス給付」の「適正化」を一番のターゲットにしているのかもしれない。しかし、その余波かどうかはわからないが、残念ながら重度の高齢者の「居宅サービス給付」の伸びは、相対的にはそんなに大きくない。そもそも、平均的にみると、重度、軽度を問わず、利用限度額の半分程度しか居宅介護サービスが利用されていないという現状がある。この要因については、「適正化キャンペーンの効果」、「一割自己負担の抑制効果」、「サービスのミスマッチもしくは供給制約」などいくつかの要因が考えられるが、慎重に検討する必要がある。

何か有益な情報や仮説を持っている人(特に高齢者介護の現場の人たち)は、是非ご教授願いたい。