研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

NHKスペシャル『ワーキングプア 〜働いても働いても豊かになれない〜』

http://www.nhk.or.jp/special/onair/060723.html

偶然再放送見た。けっこう反響はあるようで、いくつものブログで取り上げられているようだ。ただ、

「日本にも常に貧しい人が存在し続けていたこと、そしてその人たちの生活がどのようなものであったかをある程度知っていれば、このドキュメンタリーの内容は、生々しい現実を伝えているけれども、そんなに驚くような内容ではない。むしろあのような生活をしている「普通の市民」が戦後一貫して存在し続けていたことを知らずに、『一億総中流』の幻想に浸りきっていた自分の無知を恥ずべきである。」

と誰かさんならいうだろう。

私はきちんとコメントする余裕ないけど、あえていうなら、コメントを寄せていた三人の識者の顔ぶれが不満。内橋克人宮本みち子村尾信尚。もうちょっといい顔ぶれを選べたんじゃないだろうか?

なぜ、問題の一つの核心は市場経済労働市場のあり方であるはずなのに、きちんとした市場経済の専門家にコメントを依頼しなかったのか(といったら内橋氏と村尾氏は怒るだろうか。でも内橋氏は経済評論家だし、村尾氏は財務省上がりの行財政研究者だし)。

確かに、妻の介護費用(入院費用)に年金のほとんどを費やす秋田の仕立て屋のおっちゃんの厳しい生活の問題や、ガソリンスタンド三つ掛け持ちのだんなの子供の教育費用問題は、財政の問題ともいえるが、「ワーキングプア」の問題が主題の番組のはずなのに、なぜ労働経済学者やマクロ経済学者にコメントを求めなかったのか。大竹文雄氏とか。断られたかな。

まぁ、生々しい実態を暴くのがドキュメンタリーのつとめなら、その役割はそれなりに果たしているとは思うので、ないものねだりだけど。番組自体はとても興味深かったので、また再放送をするようならお見逃しなく。ああいう実態は、番組でも言っていたように、街をうろついたり本や雑誌を読んだだけではなかなかわからないし(*追記:番組では、「のどかな田園風景、にぎやかな都会の雑踏を眺めているだけではワーキングプアの問題は決して見えてきません」というコメントだったようだ。)そもそも、普通は歳を取るごとに異なる階層に属する人たちと出会う機会はなくなっていくから(人によっては小学生、中学生からだけど)、なかなか上の階層の人には貧しいってことの意味が理解されにくいだろうし。頑張れNHKドキュメンタリー。