研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

ロックトインについて語ることについて(追記1と追記2あり)

「過剰で貧困な想像力」
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070317#p1

に対して応答が来た。

ブログ批判
http://blog.m3.com/Visa/20070325/2

尊厳死反対の方たちへ
http://blog.m3.com/Visa/20070326/2

それは「批判」というよりは、「誹謗中傷」と言っていいものでした。誹謗中傷に当たる箇所は「過剰で貧困」、「安易」、「無知」、「軽率」などです。私はこのブログ主を特定して名誉毀損で訴えることもできる(?)のでしょうか。

いや、端的にいって反省しました。私の中ではこれらの言葉は誹謗中傷ではないのですが、確かにそういうふうに思われる方もいることでしょう。もともと私は言葉がキツイところがあるので、こういうときには損ですね。今後は気をつけたいと思います。また、名誉毀損で訴えてもかまいません。私にメールを下されば、本名も所属も住所もすべてお教えいたします。逃げも隠れもいたしません(笑)。ただし、そんなエネルギーがあるのならば、お互い相互理解に励んだほうが生産的でしょう。稲葉先生のように、善意で喧嘩売って結果的に物別れに終わる、という事態は避けたいものです(稲葉先生すみません笑)

しかし、ことりさんの言説はなお、批判すべきもの、あるいは熟慮すべきものを含みますので、再び書かせていただきます。

私がことりさんの過剰な(と再びいわせていただきます)想像力に対して危機感を抱いたのは二つ理由がある。

一つは、確かにやや感情的なものであり、私にとってというよりも、当事者にとって非常にセンシティブな問題であるから、あまり書きたくはなかったのだが、仕方ないので書くことにしよう。ことりさんは知らないであろうが、「生きている脳」に私より先にトラックバックを送ったajisunさんのお母さんはALS患者でロックトインの状態である。私もお会いしたことがある。

ちなみにajisunさんの昔の日記にも、ロックトインについて書かれたものがある。

目玉もとまるということ  LOCKED IN
http://homepage2.nifty.com/ajikun/locked.htm

現にそうした状況を懸命に生きている方がいて、それを懸命に支えている人がいることへの想像力もなく


地獄ではないでしょうか。

と赤い太線で強調してさらりと書いてしまえる貧困な想像力と無神経さが私には端的に不快でショックであった。しかしajisunさんは、とくに名指しもせずに、トラバ元で冷静に次のように応答している。

「専門職にケアマインドを」
http://d.hatena.ne.jp/ajisun/20070317

だが、もっとも信頼を寄せるべき医者はケアの本質を知らず、その多くが見た目で病人を仕分けしている。そして、その人はこれ以上、生きていてもかわいそうだと思った瞬間に、その病人の尊厳はその医師により地に叩き落とされているのだ。いったい何人の人間の尊厳が、そのように上から見下ろす視線によって損なわれたことだろう。

医者が人間の尊厳の源がどこにあるかを知らないのは本当に困ったことなのだ。

医者と看護師の養成課程にTPPVの長時間介護を必修科目に入れたらどうだろう、などというのは、医者のケアマインドの不足を痛恨させてくれるブログをmojimojiさん経由で見つけてしまったので。だが、これもありふれた優生思想というべきだろう。日本の医療の行く末を、アーメン、祈りたい気持ち。

このように冷静な対応ができるようになるまで、ajisunさんがどのような道のりを辿ってきたのかは私にはわからないし想像できないし想像もしない。しかし一つだけ、私でもかすかに分かることは、このようなajisunさんやその母親を前にして、赤い太文字で軽率に書かれた「地獄ではないでしょうか」という言葉がいかに暴力的で無神経な言葉であるか、ということだ。

しかも、この言葉は、医師という立場にいる人から、多くの何も知らない一般人が読むブログという場で、日本中に向けて発せられた言葉なのである。「地獄ではないでしょうか」という言葉はことりさんが弁解するような中立的な「問いかけ」ではない。権威ある専門家である医師という立場から発せられた一つの断定であり、結論である。

ことりさんは自分の「問いかけ」ならぬ「断定」調の言葉が、ロックトインの状態を生きる人や、その人を支える家族にも読まれる可能性を想定したのだろうか。mojimojiさんが哀しい気持ちになったことに大変なショックをお受けのようですが、きっとajisunさんの哀しい気持ちを知ったら、もっと大変なショックを受けると思う。そして、自分の想像力が届く範囲というものが、いかに狭いものであるかに気付くのではないか。

本来ならば、そういう自分の想像力が容易に届かない範囲までもある程度フォローしてから、自分の想像力の根拠だとか尊厳死の根拠だとかについて再考し、自分の規範的立場を定めるべきなのだ。そういう作業をしないままに他人の死について自分の想像力に過度に頼って語ろうとすることりさんの態度が、「過剰で貧困」、「安易」、「無知」、「軽率」と私が不用意にも書いてしまった理由である。

もう一つは、一つめと関係するが、私が実証的な調査や分析に基づく研究を重視する研究者の卵(卵からいつかえるのかは不明笑)であるということだ。この立場からすれば、ことりさんは、個人的な死生観が、安易に一般化されて、それが公共政策として成立してしまうことの危険性に対してナイーブすぎる。

私がALSだったらという仮定で想像力を働かせると、私だったらロックトインの状態で「まだ生きたい。どうか人工呼吸器を絶対に離さないで!」と思うことは、あり得ないと思います。

というのはいい。しかし、その個人的な死生観をベースに、公共的な資源配分や政策立案に直結するような議論を展開する際には、ALSやロックトインの状態に対する正確な理解が必要だ。そういった理解や理解への努力があまり見られず、自分の想像に基づいてあれこれ議論を進めることりさんのやり方に私は危惧を抱いたのであった。

まぁここらへんは確かに難しくて微妙な問題ではある。個人的な価値観や(想像力に基づいた)現状認識をベースに公共的な資源配分や政策立案について議論するというのは、多かれ少なかれ、実証的な研究者も含めてみんな行っていることだからである。しかしやはり、ことりさんの記述には、「私だったら。。。」というトーンの記述がいつのまにか「みんなそうでしょ?」というトーンの記述になっていたりと、個人的な価値観や想像力の部分と、より一般的な事実認識の部分の混同が散見される。そういう部分は、やはり釘を刺しておかざるを得ない。

最後に。私は尊厳死に賛成とか反対とかまだ言えない。そして今は、それで済まされている立場であると思う。だが、尊厳死に賛成であろうが反対であろうが、おかしいと思う議論には突っ込みを入れたくはなる。今のところ、ajisunさんやmojimojiさんのように、尊厳死に慎重である人々のほうが議論や現状認識にほころびや破綻がなく、尊厳死を推進する人々のほうに議論や現状認識の甘さを見て取ることのほうが多い。これには私の価値観や現状認識の偏りも大きく影響しているであろうが、そうなのだから仕方がない。

ことりさんが、ALSやロックトインに対してきちんと勉強して、幅広く理解した上でなお、尊厳死に賛成だというのならば、私はそれを「過剰で貧困」だとか「安易」だとかは決して言わないであろう。私は尊厳死賛成・反対について議論しているわけではなく、そういった議論をするときのことりさんの倫理的態度や推論の方法を問題にしているのだから。

ことりさんの文章を読むに、確かに「地獄ではないでしょうか」のようにたまに無神経で暴力的な書き方をするが、ALSを巡る様々な状況を理解すれば、もう少し慎重に考えることができそうなタイプの人のようで安心した。

私はことりさんとの議論の仕方を間違えた。トラックバックももらえなかったし(泣)、もう修正不可能だろう。大変残念であるが、自業自得である。まぁもともと尊厳死の話とかは得意ではないし、mojimojiさんにおまかせしよう。ajisunさんには、無意味に掻き回して、個人的なことにまで言及して、ご迷惑をおかけしたかもしれない。一応ajisunさん自身がブログで書いているのでかまわないと思って言及させて頂いたが、不適切もしくは不快ならば削除しますのでご連絡を。

参考文献

追記1:
しかしあの文章で誹謗中傷とか個人攻撃とか、もっと激しい表現が飛び交う日本の社会科学系のブログや論壇では考えられないなぁ。そっちの感覚に浸っていたのがよくなかった。反省。今後はしばらくブログ書くペースもかなり落ちてしまうかもしれないけど、書くときは論文書くようなつもりで紳士的で慎重な言葉のみを使うように心がけよう。たぶん。

追記2:

もう私はとくに書けることがないので続報のリンクだけ。ちょっと今回はでしゃばってしまって反省。本来、尊厳死に関しては私はブログ等で語れる水準にはない。もちろん、人の生死について語る資格のない人なんていないというのが原則だが、私自身の中にもいちおうブログで書く基準というものがあって、自分なりの独断と偏見で、取り上げる内容の重さ軽さと、自分の知識・理解・考察の深さ浅さを比較考量して、書いたり書かなかったりしている。尊厳死にまつわる問題は、内容の重さに比べて自分の知識・理解・考察が浅すぎるので、本来は自分の言葉で書くべきではなく、mojimojiさんやajisunさんの記事や文章の紹介に徹するべきだったのかもしれない。

続報:
「ロックトインについて」
http://blog.m3.com/Visa/20070327/1

「TLSについては、まだまだわからないことだらけで・・」
http://d.hatena.ne.jp/ajisun/20070327

「Locked-inの二つのイメージ」
http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20070327/p1