研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

消費税の逆進性と再分配効果について

「飄々と始まった増税論議(経済アナリスト 森永 卓郎氏)」

消費税は、低所得者ほど実質負担が大きい逆進的な税制だと言われる。低所得者は収入のなかから消費に回す割合が大きいから、税率は同じでも、所得の低い層ほど実質的な負担が大きくなってしまうのだ。

 ところが、総会前に開かれた2日の企画会合の議論のなかで吉川洋主査(東大大学院教授)は、消費税増税は逆進的ではないかという指摘に対して、次のように主張したと報じられている。

 「社会保障低所得者ほど給付が大きい。生涯にわたる所得でみれば(消費税の逆進性は)深刻ではない」。

 つまり、年金にしろ何にしろ社会保障低所得者に手厚くなっているのだから、取るときも低所得者からとって問題はないというわけだ。これが本当に東大教授の発言なのだろうか、唖然としてしまう。

 わたしが改めて言うまでもないが、低所得者に手厚く分配するから社会保障なのである。そうした再分配効果を否定されてしまっては、社会保障の意味がない。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/109/index1.html

このモリタクさんの反論は正確ではない。当ブログでも何度も紹介してきたように、少なくとも原理的には、社会保障給付に累進性があれば、消費税でも再分配は可能であるし、そのような指摘はここかしこで見られる。従って吉川氏の指摘それ自体が必ずしも間違っているわけではない。(ただし給付の普遍性や累進性の程度が低い場合には、消費税の逆進性が深刻となる場合もあるだろうが。ここらへんをきちんと議論するには実証研究やシミュレーション研究が必要だろう。)

メーデー雑感+加藤淳子(2003)『逆進的租税と福祉国家
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060502#p1

大きな政府」なら「逆進課税」、「小さな政府」なら「累進課税」というビジョンになる?「大きな政府」派の主張。(上記エントリの続き)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061026#p3

ちなみに2004年の政府税調による北欧の消費税と社会保障制度の実態調査においては、消費税の逆進性の緩和策として、軽減税率よりも累進的な所得課税や給付による再分配効果が重要であるとのデンマークノルウェーでの指摘も紹介されている。
http://www.cao.go.jp/zeicho/siryou/pdf/b15kaia.pdf

確かに消費税増税はすべての国民の生活に直結する問題なのでいろいろ議論すべきではあるが、モリタクさんのように(とくに左派的マインドを持った人に対して)それなりの影響力がある人には、もう少し冷静な発言をしてほしい。