研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

消費税増税関係メモ

1.峰崎財務副大臣記者会見
権丈氏ウェブ経由で

峰崎財務副大臣記者会見の概要
http://www.mof.go.jp/kaiken/kaiken_my20100415.htm

私は菅大臣に、むしろそういう考え方が大いに正しいというふうに色々な資料を持って行き、特に慶応大学の権丈先生が書かれた色々な資料を差し上げて是非読んでくださいと。今日の権丈先生のブログに、私と副総理・財務大臣と会ったという話が載っていましたから、会ったということは事実でございます。あの方の主張というのはやはり積極的社会保障政策、つまり第2次ケインズ革命ということで表現していますけれども、非常に社会保障分野というのは経済成長にある面では、税収をそこにある意味では投下をしていけば、これは雇用も増えてくるし経済成長になっていくという考え方を持っておられますし、私自身も所得再分配だけで経済成長すると言っているのではなくて、経済成長そのものはご存じのように資本、設備、それから労働力、それからある意味では全要素生産性の伸びというところで伸びていくわけですが、そういうある意味では社会的なインフラストラクチャーを整備することが市場で努力をする人たちのセーフティネットをつくっていくわけですから、そういう意味で今非常に、先ほど途中で申し上げましたけれども、民間企業がそういう新しい設備投資の分野をなかなか探しあぐねて、非常にそこで投資が伸びていない。それをやはりある意味では今ある需要で、確かにここに投資をすればお金が有効に生きる、雇用も充実出来るというところにお金を出していくことが今やや凍り付いていると言われている日本のお金の、財政の状況といいますか、有効需要を増やしていくということには大きな貢献をするのではないだろうかというふうに思っています。

2.井堀氏プレゼン@財政制度等審議会土居氏ツイッター経由で

「財政健全化・消費税とマクロ経済活動」 井堀 利宏 委員
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia220518.htm

ちなみに土居氏はツイッターで次のように言及。

1997年の景気後退の主因は消費税増税にあらず。これは国民の共有認識にすべし。共同通信の記事にhttp://bit.ly/aO0Anyとあるが、我々は「小野理論」の片棒を担いでいるつもりはない。長年の持論を展開するのみ
https://twitter.com/takero_doi/status/14248596985

報道ではこんな感じ。

97年の消費税上げ、景気の主たるマイナス要因でなかった=財政審
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-15363320100518

会合後に会見した大串博志政務官によると、当時の消費税率引き上げは景気に対して主たるマイナス要因ではなかったとする意見が大勢を占め、成長率の低下について不良債権処理問題やアジア通貨危機の影響を指摘する声が多かったという。
(中略)
井堀利宏東大教授が97年4月の消費税率引き上げ(3%から5%に)が景気に与えた影響に関連して、1)経済への影響をネットで見た場合、消費税増税よりも不良債権処理問題やアジア通貨危機の方が大きかった、2)増税は将来の減税と等価であれば経済に中立、3)増税の使い道も大きな問題−−などと説明した。
(中略)
また、委員からは97年当時に比べて財政状況はさらに深刻化しており、「財政健全化の緊要性が高まっている」との現状認識が示されるとともに、「財政健全化に取り組むことが安心感を生み、消費や投資を刺激して経済を良くする効果もある」との議論も展開された。

 一方、これに対して一部の委員からは、住宅投資への影響など増税によるマイナス要因を指摘する声もあったという。

3.政府税制調査会の専門家委員会ついでに以前とりあげた政府税制調査会の専門家委員会。ぜんぜんフォローしていないけど、どんな議論がなされているんだろう。いずれチェックしたい。

専門家委員会
http://www.cao.go.jp/zei-cho/senmon/sensiryo.html

関連エントリ

社会][財政]「税制調査会専門家委員」の勢力図
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100129#p1

4.追記:1997年の消費税増税がマクロ経済に与えた影響

勿凝学問174 1997年不況の原因は、本当に消費税率引き上げなのか?当時の公共事業費削減やアジア経済危機も思い出してあげないと、消費税が可哀想だ
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare174.pdf

勿凝学問 307 来年度からの消費税率引き上げを言う 3 人目?を発見 僕、経団連、それに IMF のご登場
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare307.pdf

このことについてマクロの実証研究ではどのような結論が出ているのだろうと思って、グーグルスカラーで20分ほど英語、日本語文献を探したが、土地勘がないこともあり、思うように見つけられず。明確な言及があったのは下の論文2本のみ。もっとあるとは思うんだけど。似たようなテーマの論文でも(俗っぽくいうと財政タカ派の)井堀氏のものが多いが、理論的・実証的に違う立場の人の書いた実証研究はないだろうか。日銀ワーキングペーパーあたりにあるのだろうか。

井堀・中里・川出(2002)90年代の財政運営:評価と課題
https://www.mof.go.jp/f-review/r63/r_63_036_068.pdf

次に,税収の増加による経済変動への影響を検討する。民間消費及び民間投資に対する効果はほぼ共通しており,90年代における税収増の効果はそれ以前に比べ大きなものではなくなっている。民間消費については,90年代以前は1%の税収増のショックが次の期に民間消費を増大させている。しかし,90年代に入ると,どの推計でもほとんど民間消費に影響を与えないようになっている(図2−10)。民間固定資本形成については,税収増のショックがHPF 及びBPFの場合には正の効果,BND の場合には負の効果が示され,90年代にはBND がマイナスの効果を大きくする一方で,HPF 及びBPF はその効果が弱くなっている(図2−11)。

以上のように,VAR による分析では90年代の税収増加による影響は,BND における民間投資への効果をのぞいて,民間消費及び民間投資にそれほど影響を与えにくくなっている。ショックとしての税収増を増税と解釈すると,増税の短期的効果はそれほどマクロ経済に悪影響を及ぼさないことから,増税による景気後退というメカニズムが統計的に確認できないことが示された。(pp.49-50)

上記論文の英語版?

Ihori,Nakazato, Kawade(2003)Japan's Fiscal Policies in the 1990s
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=411349

ワーキングペーパー版
http://www2.e.u-tokyo.ac.jp/~seido/output/Fujiwara/fujiwara25.pdf

Abstract:
This paper first summarises Japan's fiscal policies in the 1990s. Then, we investigate the macroeconomic impact of government debt and the sustainability problem. We find that the Keynesian fiscal policy in the 1990s was not effective and fiscal sustainability may therefore become a serious issue. We also estimate the optimal level of deficits and evaluate fiscal reconstruction movements. It is shown that the actual deficit exceeded the optimal level in the late 1990s. We then inspect fiscal reconstruction movements in the Hashimoto Administration in 1997 and find that the major factor of recession in 1997 was not fiscal consolidation. An important lesson from Japan's fiscal policies in the 1990s is that long-run structural reform is more important than short-run Keynesian policy.

さらに諸外国含めて、不況期・デフレ期の消費税増税の影響がどんな感じになりそうなのか、参考になりそうな実証研究の蓄積はあるのだろうか。あっても時系列分析の専門的な部分とか理解できないだろうけど。

追加:ツイッターで片岡氏に紹介してもらったレビュー論文を追加

中里透『1996年から98年にかけての財政運営が景気・物価動向に与えた影響について』
http://www.esri.go.jp/jp/others/kanko_sbubble/analysis_05_04.pdf

参考エントリ:
[経済][財政][社会保障]不況下の消費税増税(or財政再建or社会保障強化)がマクロ経済に与える影響(2010-06-09)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100609#p1