研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

生活困窮者の「リアルタイム把握」を

昨日、認定NPO法人もやい理事長の大西連氏と、以下の共同執筆記事を公開しました。

また、この記事で利用しているグラフを、下記のリンク先でインタラクティブ・グラフとして公開しています。

コロナ禍での生活保護・住居確保給付金・生活福祉資金

上記記事で掲載されているグラフの個別の件数や金額がわかるようになっているので、長い文章が苦手な方は、こちらを見てください。 

以下では、この記事を執筆した背景の一つを、私の個人的見解として説明します。

 

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9月9日に、以下のニュースが一部で話題になったことを覚えている人もいると思います。 

感染者数が多い上位10の都道府県のうち、人口の多い東京23区や政令指定都市など合わせて36の区や市にアンケート調査を行い、「住居確保給付金」の申請件数を独自に集計」した調査報道であり、たいへん貴重なものでした。

このように、NHKやいくつかのマスメディアは、コロナ禍において不定期で生活保護や住居確保給付金の利用状況についての調査報道を行っています。そして、それらを通じて、私たちは現在の生活困窮者の増減の状況を断片的に知ることができます。

また厚生労働省は、コロナ禍以前より、生活保護の「被保護者調査」を月次で速報として公開しています。現時点では2020年6月までの生活保護の受給状況を、全国・都道府県・政令指定都市中核市別に、大まかに把握することもできます。 

被保護者調査:結果の概要(月次調査)

一方で、上記のNHK報道でも取り上げられた住居確保給付金や生活福祉資金の特例貸付は、厚生労働省がコロナ禍での困窮者支援の一丁目一番地と位置付けています(下記ウェブサイトをご覧ください)。にもかかわらず、その利用実態についての速報統計はほとんど公開されていません。

(ただ最近、厚生労働省のオープンデータの一番下に、生活福祉資金の特例貸付の簡単な統計が加わりました。)

そこで私たちは、国会議員事務所が厚生労働省より提供を受けた都道府県レベルの月次データを入手して、冒頭の解説記事を書くとともに、そのデータを公開した、というのが、今回の記事の背景の一つです。

 

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今回入手した統計から分かる住居確保給付金や生活福祉資金の特例貸付の「急増」は、書きぶりによっては「バズらせる」ことも可能な貴重なものです。しかし、私も大西氏も、そのような書き方をしないことについては合意がありました。

私たちの目的は、ただネットで話題になり、次の日には忘れられるような記事を世に出すことではなく(もちろん上記NHK記事のことではありません)、これを一つの出発点として、コロナ禍や「平時」における生活困窮者の実態把握やその対策の推進に貢献することです。(私たちが二人ともネットでバズらせるのが苦手ということもあります。)

もちろん、より多くの人に上記の記事やグラフを見ていただき、コロナ禍や「平時」における生活困窮者の実態や政策についての議論が進むことは重要だと考えています。

ですので、上記の私たちの記事に興味を持った発信力のあるジャーナリスト・ライター・記者の方々には、是非、(大西氏に)取材を申し込んで欲しいと思います。

私としては、これをきっかけに、コロナ禍かどうかをとわず、生活困窮者の「リアルタイム把握」を誰もが簡単・迅速に把握できるように、生活困窮者関連の公的統計について、政府には以下の3つの事柄を実現してほしいと考えています。

  1. 全国・都道府県別・都市別の迅速な月次データのリアルタイム公開
  2. V-RESUSのような分かりやすいユーザーインターフェースでのグラフの公開とリアルタイム更新
  3. 1と2を無理なく実現するための、十分な関連予算と人員の確保

 もちろん、リアルタイム公開といっても、公的データであるため、いくらかのラグが伴ってもかまわないし、V-RESUSほど洗練されたユーザーインターフェースでなくてもかまいません。できるところから、やって頂きたいと思います。

 

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実は、今回公開したグラフに対応する都道府県レベルのグラフもほぼほぼ作成済みです。しかし、公開できるクオリティになっていないため、残念ながら今回は全国レベルのグラフだけ公開しました。ただし、都道府県レベルのデータも含めて、全てのデータは下記のGitHubの「household_support_monthly」フォルダで公開しています。今後も、必要に応じて更新します。

GitHub - michihito-ando/covid19-japan-policies: Documents about Japanese COVID-19 policies

 

※最後に、今回のデータの前処理やグラフ作成は、自費で契約したリサーチ・アシスタントとともに行いました。私たちが共通して使用できる統計分析・グラフ作成・Webアプリケーション作成ソフトはRのみなので、RMarkdownおよびShinyを使ってグラフを作成しました。ただしShinyについては、一般公開にはサーバーが必要であるため、公開の見通しは立ってはいません。このあたり、ボランティアとして参加したい、Rをそこそこ扱える方は andomichihito<at>gmail.com までご連絡ください。(Webアプリケーション作成にはPythonやJavaScrpitのほうがよいのかもしれませんが、現時点で私が使えず更新できないので、R限定となります。)