研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

地方分権改革推進委員会メモ

私自身はぜんぜんウォッチできていないのだが、id:sunaharay氏のウォッチをウォッチしているので、なんとか少しだけフォローできている。というか、sunaharay氏のウォッチはほんとに充実していて、これタダでいいのか、と思ってしまう。おそらく、sunaharay氏の将来の研究に生かされると思うので、期待大。

で、今の地方分権改革推進委員会では、第三次勧告に向けて、地方税財政についての議論がなされているわけだが、当然、地方税財政の議論は社会保障制度(とくに高齢者・障害者ケアや保育のような現物サービス)のあり方にも大きな影響を与える。

詳しい解説はsunaharay氏のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/sunaharay/20090220)を参照なのだが、個人的にやはり気になるのは、sunaharay氏のこのコメント部分で、

(消費税を(*引用者注))「社会保障給付」に使うことを優先するとすれば,一般財源である地方税交付税の原資にはなりにくいような気が。そうなると話の筋上負担金にでもするしかないのかな,と

これに関連して、下記からダウンロードできる委員会資料の小西先生の資料のp15あたりが気になる。ちょっとこれだけ読むと意味深なところがあるので(単に勉強不足なだけかも)、実際に映像を見てチェックしたほうがよいかもしれない。

第73回 地方分権改革推進委員会
http://www.cao.go.jp/bunken-kaikaku/iinkai/kaisai/dai73/73gijishidai.html

p15にはこんなことが書かれている。

・義務付け・枠付けの見直しは、国庫負担金の根拠を失わせ、地方交付税の算定を簡素にすることで包括算定(たとえば新型交付税)を拡大する契機となりうる。第2次勧告の内容は、国と地方の役割分担を変えるほどのレベルではなく、直ちに財政制度に影響するものではないものの、いわば「蟻の一穴」であって、勧告に沿って実現すれば、今後、さらに義務付け・
枠付けの見直しが深化することが期待できる画期的なものである。
・義務付け・枠付けの見直しは、今後、第二段階、第三段階と進めていき、それによって国庫負担金の交付基準や国の役割の縮小を進めていくべきものと整理すべきではないか。
三位一体改革で行われたように、義務付け・枠付けの見直しがなくても、国庫補助負担金の縮小(一般財源化)は可能であり、並行して進めるべきである。

􀂄 現在の国庫補助負担金のの運用では、国が定める一定の要件を満たしたものに国庫補助負担金を交付するものであり、国が一定レベルサービスの水準をクリアすることを地方に求めることがなくならない限り、簡単には見直せない。もっとも第二次勧告の内容が実施されれば、国や地方の関係者の意識が変わり、そこからさらなる義務付け・枠付けの見直しを進めていけば、国庫補助負担金の見直しが可能であり、それをめざすべきである。
􀂄 包括算定(新型交付税)は、義務付け・枠付けの弱い投資的経費を中心に導入され、全体の1割という当面の目標を導入年度に達成している。今後、さらに義務付け・枠付けの緩和が進み、たとえば保育所であれば、保育所という概念が大きく緩和され国が明確に規定しないというほどのレベルになれば、経常経費であっても包括算定に組み込まれることは考えられる。財政需要に応じて基準財政需要額を算定するという基本に反し
て単に簡素化を進めるとすれば、結果的に非効率な財源配分になるのではないか。
􀂄 第二次勧告の義務付け・枠付けの緩和が、地方の事務の軽減にダイレクトにつながるものは、計画等の策定などにかかる一部であり、それらは地方財政計画の歳出水準を圧縮する効果がわずかにある。

コメントする能力はないので、これでおしまい。

ところで、この小西先生の資料はとてもわかりやすいので(といってもややこしいだが)、地方財政制度の複雑さにゲンナリして理解を諦めている(あるいは無意識に避けている)社会保障関係者にはよいかもしれない。

ちなみに、またディレッタント的な小話をすると、小西先生はなかなか変わった研究パスをお持ちの方で、最適課税論(公共経済学の一研究分野)の研究で博士号をとったようだが、その後は自治体合併の研究を契機に様々な自治体に個別に入っていき、現在は地方財政自治体財政に精通した研究者として、完全に理論研究者から制度研究者へと転進を遂げた研究者である(本等からの憶測なので、事実誤認があったらすみません)。

おそらく、彼ほどマニアックに地方財政自治体財政に精通している人は、(彼の出自である)主流派経済学研究者(地方財政地方分権の理論・計量分析をしている人々)はもちろん、歴史・制度研究を得意とする神野系(あるいは東大のマル経財政学を祖先にもつ)財政学者にもそうそういないと思われる。

日本の税制改革―最適課税論によるアプローチ

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市町村合併ノススメ

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地方財政改革の政治経済学―相互扶助の精神を生かした制度設計

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自治体財政のツボ―自治体経営と財政診断のノウハウ

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自治体財政健全化法―制度と財政再建のポイント

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