6月7日から15日にかけて、久々に長めの出張でスウェーデンに滞在し、いくつかの場所を訪れた。
当初、研究報告は後半の学会報告での1度だけの予定だったが、結局、インフォーマルなものとはいえ、スウェーデン財務省とウプサラ大学住宅都市研究所でも30分ほどの短い研究報告を行った。
それ以外にも、久々の比較的長めの滞在ということで、博士課程時代の指導教官や友人や知り合いなどに多く会い、充実した出張だった。自分が博士号を取得したウプサラ大学や後述するメインイベントの学会の他に、博士課程時代の同期や後輩が働くストックホルム大学のSOFI(The Swedish Institute for Social Research)やスウェーデン財務省を訪問することができ、またスウェーデンで働く日本人の医師・データサイエンティスト・経済学者の方々とも久々に対面で会い、さまざまな話をすることができた。
以下、研究報告をしたところについて、簡単に忘備録を残しておく。
スウェーデン財務省は、大学院博士課程時代の知り合いが働いていたツテで訪れることになり、当初は立ち話くらいのつもりだったが、不定期でセミナーを開催しているらしく、そこで報告することとなった。
スウェーデン財務省のオフィスは日本の財務省とは全く異なる環境であった。歴史的建造物の中にオフィスがあることは共通しているが、中はモダンな造りになっており、日本の大企業や官庁のような大部屋文化もないため、個室もしくは数人によるシェアという感じで、スウェーデンの大学キャンパスと似たような雰囲気を感じた。そして自動昇降式のスタンディングデスクを使っていた。
スウェーデン財務省でのセミナーでは、先方(or 知り合い)の希望で、保育所入所が家事・育児分担に与える影響についての研究を報告した。財務省の歳入担当部署の人たち(ただし全員が経済学修士号か博士号を取得)が中心だったが、いろいろと質問やフィードバックをもらうことができた。この論文は第一稿の完成が伸び伸びになっているので、早く完成させなければならない。
ウプサラ大学住宅都市研究所(IBF, Institute for Housing and Urban Research)は、私の指導教官と副指導教官が現在も在籍し、私が博士課程時に在籍していた研究所である(経済学部の博士課程だが、給与はここから出ていた)。当時、私はほとんど在宅で研究をしており、セミナーも経済学部のほうは出席していたものの、住宅都市研究所のセミナーにはまったく参加しておらず、また当時は、住宅都市研究所では経済学的な研究プロジェクトはあまり行われていなかった。
だがいまは、指導教官らがウプサラ市から研究資金を獲得し、だいぶ研究プロジェクト体制がしっかりしている印象であった。訪れた当日は、主に大学院生による研究報告ワークショップがあったので、そこに混ぜてもらって30分ほど報告させてもらった。
IBFでのセミナーでは、戦前の高橋是清による拡張財政が自殺抑止に与えた影響についての研究を報告した。戦前日本における「自殺」という現象が、どのくらい当時の欧米あるいは現代社会の自殺と比較可能なのかという趣旨の質問を当初に受けたことが印象的だった。あとは、スウェーデン人が歴史的な個票データでゴリゴリ似たような研究を進める前に、早く論文を完成させなければならない。
FISS:Foundation for International Studies on Social Security
出張後半は、Sigtunaというストックホルムとウプサラの真ん中くらいにある湖畔の町で開催されるFISS(Foundation for International Studies on Social Security)という社会保障・社会政策系の小さな学会に参加した。
この学会は、規模が小さく継続的な参加者が多いため、アットホームな雰囲気にもかかわらず、ヨーロッパの社会政策系の一流研究者も多く集まる良い学会だと思う(ただし私自身はまだ2度目の参加)。だが日本人参加者は少なく(今回は私を入れて2名)、もったいないと思う。経済学者も参加しているが、社会学系や福祉国家系の社会政策学者が多く、この領域の研究動向やネットワークを知るにはよいところだと思う。スウェーデンからはストックホルム大のSOFIの社会学者・社会政策学者が多く参加していた。
FISSでのセッションでは、コロナ禍が失業手当と生活保護の利用に与えた影響を分析したショートペーパーを報告した。ショートペーパーなので報告時間が余るのではないかと心配したが、案外いろいろと話すことがあり、質問やコメントもけっこう貰うことができた。この論文も、ショートペーパーなのに完成が遅れており、早く仕上げなければならない。