- 作者: 武川正吾
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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エスピンーアンデルセン以後の福祉国家論をベースに、福祉国家政策や社会政策と人々の社会意識との関係を計量的に分析したもの。まだざっと眺めただけだが、なかなか面白そう。これもちゃんと読んでいないけど、大竹文雄の『日本の不平等』の5章「誰が所得再分配政策を支持するのか?」の社会学バージョン的な感じか。
個人的に特に面白そうと思ったのは、13章「日本のなかの『3つの世界』 地方分権と社会政策」(上村泰裕著)。医療・介護・福祉において日本内で西高東低の傾向があることはよく知られているが、理由はあまり定かではない。本章ではエスピン・アンデルセンの3類型を援用して(やや安易ではあるが確かに便利。厳密な定義はエスピンアンデルセンのそれとは違う)、福祉に対する社会意識に、地域ごとに特徴があるといっている。いわく、
自由主義型:東京・東海
保守主義型:東北・北陸信越・中国・四国・九州
社民主義型:北海道・北関東・南関東・大阪・関西
だそうだ。
そして終章の要約によれば、
社民主義型の地方では、介護や環境といった新しい政策課題を柱として、公共部門によるサービスの充実が求められている。
保守主義型の地方では、公共事業などの従来型の政策課題が強く支持されているが、福祉に関する現状維持志向は50歳代以上の人びとに限られている。
自由主義型の東京では、介護や緩急といった新しい政策課題が重視されており、民間部門による多様なサービス供給を望むひとが多い。
だそうだ。これはなかなか示唆に富む結果だし、今後、地方分権が進んだときに現実化するであろう自治体間の福祉政策や福祉水準の差について考えるためにはいいスタートラインになるかもしれない。
ただ、これは一般的な傾向なのだろうが、経済学者が計量分析を行うときには、先行研究を参照しながら、何らかの理論や仮説に基づいて比較的慎重に説明変数を選択してモデルを構築するのに対して(前に質問したある先生が「労働経済学者はそういうのが適当な人が多くて困ったものだ」とかボヤいてはいたけど。社会学者とか公衆衛生学の研究者はあまりきちんとした理論や仮説がないまま(あるいはきちんと解説しないまま)、説明変数を選択しているケースが多い気がする。この本のいくつかの計量分析もそういう印象を受ける。回帰分析は、一つ変数を落としたり加えたりするだけで有意か否かとか係数の大きさとか結構変わってきてしまうため、そこらへんはもっとデリケートに扱ったほうがいいと思うんだけどなぁ。まぁそれは自分に対する諌めの言葉でもあって、まだまだ要勉強、要修行ということで。