研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:高橋洋一氏が反論!「その消費増税論議、ちょっといいですか」&スウェーデンの社会保障事情

高橋洋一氏が反論!「その消費増税論議、ちょっといいですか」
番外編 日銀の金融政策で財政再建と円安誘導は簡単にできる
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120313/229746/?P=1

いろいろ勉強になるが、2箇所、(本記事のメインの内容からすると瑣末な点で)事実誤認というか、内容が不正確な点をメモ。

そもそも消費税は、普通の国では地方の一般財源です。だから分権化した後、地方の行政サービスを向上させるために地方の消費税率を上げますという話なら分かる。消費税を国の税金として社会保障に使おうとしているのがおかしい。

高橋氏はいつもこう言っているが、

租税負担率の内訳の国際比較(国(連邦)税・州税・地方税
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/022.htm

を見るとわかるように、たしかに消費税を地方(特に州レベル)に割り当てている国はあるけれども、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンと、アメリカ以外の国では消費税は中央の一般財源としてそれなりに入っている。

次に、

スウェーデンも歳入庁がありますね。スウェーデンでは、個人は社会保険料を払っていないですね。社会保険料や年金は法人税が財源でしたね。

これは質問者のコメントだが、「法人税が財源」というのはミスリーディングだと思う。確かにスウェーデン社会保険料社会保障拠出金)は雇用主負担がほとんどだが、法人税とは別。

参考

飯野(2008)スウェーデン社会保障所得再分配
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18429304.pdf

内閣府経済社会総合研究所(2005)スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調(が株式会社富士通総研に委託)
第2章第6節 スウェーデンと日本の国民負担の比較
http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou014.html

高山憲之(2008)スウェーデンにおける税と社会保険料の一体徴収および個人番号制度
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~takayama/sweden0804.pdf

伊集守直(2004)スウェーデンにおける1991年の税制改革
http://kamome.lib.ynu.ac.jp/dspace/bitstream/10131/3419/1/KJ00004763244.pdf

ちなみに、スウェーデン社会保障は、現物給付は地方税(登録や納税は税務署)で、現金給付は社会保険で、という住み分けがかなり明確であり、分かりやすいのが特徴である。神野・井手(2006)『希望の構想』は、このようなスウェーデン型の現物給付と現金給付の住み分けを提言している。ただ、特に介護と医療が現行の日本の(中央集権型の)社会保険制度とかなり異なり、地方政治の状況もだいぶ違うので、日本でこれをすぐに実現するのはかなり厳しいと思う。あくまで最終目標あるいは理念であり、改革は段階的にということなのかもしれないが。

希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン

希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン

さらに言うと、スウェーデンでは、多くの手続きはオンライン化がかなり進んでいる印象がある。自分もプライベートでそれなりの地方自治体サービスを受けてきたほうだが、未だに市役所に行ったことは一度もない。もちろん税務署や移民局は住民登録や滞在許可申請で行く必要がある。

スウェーデン社会保険庁(英語ページ)
http://www.forsakringskassan.se/sprak/eng/

スウェーデンの税務署
http://www.skatteverket.se/2.18e1b10334ebe8bc80000.html

自治体サービス例:ストックホルム市の保育園のページ(オンライン申請・登録・マイページへのログインができる。他市も似たような感じ)
http://www.stockholm.se/ForskolaSkola/forskola/

ついでに、参考までに日本の「先進自治体」三鷹市の「みたか子育てネット」のホームページ

http://www.kosodate.mitaka.ne.jp/

わかりやすいけど、申請のページはこんな感じ。申請書類の数のレベルが違う。
http://www.kosodate.mitaka.ne.jp/download/

スウェーデンには個人番号(personal number)が存在し、税務署、社会保険庁自治体間の情報シェアが容易なので、紙ベースの申告書や証明書は必要ないケースが多く、銀行IDなどを使って自治体ウェブを通じてオンライン登録し、サービス申請と簡単な自己申告をする(もちろん、全部が全部そういうわけではない)。