研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

卒論+研究メモ

経済学部の卒論がやっと終わった。インド財政について書くはずが、インド財政のお荷物である電力セクターについて書くことになってしまった。さらにマニアックなことに、電力セクター財政赤字の最大の原因である、農業用電力料金が低すぎるという問題について追求してしまった。はっきりいってダメ論文だ。
まぁいい。収穫があったとすれば、経済学的には財政赤字という問題として現れる社会現象も、追及していくと様々な政治的、社会的な背景があるという当たり前の事実がわかったことだ。

とくに今回の論文を書くにあたって、戦後インド農政の転換を、「社会的、政治的現象がどのように経済政策に影響するか」という視点で分析した本を読んだのだが、なかなか面白かった。ヒマがあればまたちゃんと読んで、今後の研究の参考にしたい。
(Varshney,A(1995):Democracy,Development,and the Countryside)

もちろん「社会的、政治的現象がどのように経済政策に影響するか」とは単純な言い方であって、実際には「社会的政治的現象が経済政策に影響を与え、その経済政策が再び社会・政治に影響を与え、それが・・・(以下略)」という形で因果関係は錯綜しているし、この著書もそういうことを書いている。

ところで、話を今後の自分の研究に変えると、「社会的、政治的、経済的な事柄がどのように福祉制度に影響するか」というのが、自分の今後の主な研究対象である(予定)なので、しっかりした方法論を学んでいかなければならない。とりあえず社会学や経済学でこういうことに関してどういう理論があるのかはまだよくわからないので、思いついたことをつらつら書いてみる。

まず、最終的に説明したい「被説明変数」が「福祉制度」であるのはいいとして、「説明変数」である「社会的、政治的、経済的な事柄」をどう考えるか、という問題がある。「社会的、政治的、経済的な事柄」はそれ自身を被説明変数とするような説明変数を持つ可能性が高いわけだし、さっきいったように「福祉制度」が説明変数であることもある。これではループしてしまう。

これを防ぐためには、「それ以上何かに容易に起因させることができない事柄」もしくは「それ以上何かに起因させる必要はない、ととりあえず断定できる事柄」(基礎事象とでも呼んでおこう)を特定化し、それが「社会的、政治的、経済的な事柄」と「福祉制度」の因果関係(ループも含む)を構成している、という図式を取ることができるかもしれない。

たとえば、もっとも単純な階級論では、基礎事象としての私的所有制度から出発し、私的所有制度>階級制度>福祉国家みたいな因果モデルを想定していると考えられるわけだし、実際に「階級制度>福祉国家」的なモデルは、エスピン・アンデルセンをはじめ多くの福祉国家論者のたたき台になってきたものだと思う。もちろん、「階級制度<>福祉国家」であることも忘れてはならないわけだが。ここらへんは階級論を専門としているわが師匠にも聞きながら勉強したいと思うわけ。

こういった因果モデルを上手く整理した上で、それを実証的に跡付けていくことができるだろうか?すぐれた因果モデルであるためには、一般理論的にいうならば、「より少ない基礎事象」から「より多くの福祉制度」を説明できなければならない。そして、基礎事象と福祉制度の間には媒介項が必要なのだが(上記の例ならば、階級)、その媒介項がぐちゃぐちゃしていたらダメだ。俺は、ここに「社会集団」なるものを入れて考えてみようと思っている。

つまり、基礎事象>社会集団<>福祉制度という因果モデルである。なぜ社会集団なのだとつっこまれそうだが、様々な政策を作っているのは政治家、官僚、学者、圧力団体、宗教団体、社会運動体、ある特定の価値観を持った人々、どれをとっても「社会集団」とくくることができるからだ。政策に反映される様々な利害関係ってのは、結局様々な「社会集団」の利害関係や価値観であるわけで。まぁ別にこんな話は別に何も新しくないけれど。ではここでいう社会集団とは何か。今のところ、「基礎事象によって説明できる、何らかの属性を共通して持つ人間集団」ならなんでもいいのではないか、と考えている。階級、階層、社会運動体、宗教団体、学生、子供、女性、老人、なんでもありだ。もちろん、基礎事象によって説明できなければならないけど。ここまで柔軟な定義ならば、社会集団というよりも人間類型と考えたほうがいいのかもしれない。とにかく、福祉制度に関わる様々な社会集団(人間類型)を説明できる基礎事象を上手く抽出しなければならない。これは社会学だ。

結局、この作業をするならば、次の二段階になる。別に同時進行でもよい。
第一。「社会集団<>福祉制度」について考える。
第二。第一における「社会集団」を念頭において「基礎事象>社会集団」について考える。