研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

出産の無料化?2

産経ウェブでは見つからないので、友人のブログから転載。

1月14日05:24の産経新聞(らしい)

少子化対策で出産無料化??? 猪口氏独走、強い意欲 安倍長官ら即座に否定

 政府が六月にとりまとめを目指す「少子化対策」をめぐり、早くも閣内の足並みの乱れが見え始めた。出産費用を国が全額負担する「フリーバース(出産無料化)」制度の盛り込みを急ぐ猪口邦子担当相に、安倍晋三官房長官らがブレーキをかける構図で、昨年末の男女共同参画社会の第二次基本計画決定と似た展開になっている。

 「フリーバース、誕生はただということについて広く検討していくことは視野に入る。人口減少という新たな時代の到来を踏まえ、国民にメッセージ性のある強力な少子化対策を打ち出していきたい」

 猪口氏は十三日午前の閣議後の会見で、出産無料化制度の盛り込みに強い意欲を示した。さらに同日夕に開催予定の少子化社会対策推進会議で、自らの「意見」として表明する考えも示した。

 ところが、直後に記者会見した安倍氏は「出産費用の無料化などの新たな方針を決めたわけではない」と即座に否定。

 川崎二郎厚生労働相も「あのような打ち出しを、わが省がするわけがない」と不快感を示した。

 これを知った猪口氏は同日午後、首相官邸を訪れ、安倍氏に「各地の要望を説明しただけ」と釈明。安倍氏は「閣僚の声は重い。これから野党を相手に予算審議が始まることも考慮してほしい」とやんわりと戒めた。

 現行制度では、本人や配偶者が加入している健康保険組合などの公的健康保険から三十万円の出産育児一時金が支給されている。今年の通常国会では三十五万円に増額する関連法案が提出されることになっている。出産無料化は、定期健診や分娩(ぶんべん)・入院などの出費を新たに上積みすることになるだけに、政府・与党内には「財源の手当てを何も考えないバラマキ政策」との批判が強い。

 結局、同日夕に開かれた少子化社会対策推進会議で、猪口氏は「地方からの要望」という形で出産無料化を紹介しただけに終わり、記者団には「もともと、私は検討するとは言っていないはず」と釈明した。小泉純一郎首相も記者団に、「少子化対策は各省庁と連携をとってやらなきゃならない」と述べるにとどまった。

 推進会議では六月に提言をとりまとめ、経済財政政策の指針となる「骨太の方針」に反映させたい考え。だが、男女共同参画社会の第二次基本計画の策定の際、猪口氏と自民党が激しく対立し、安倍氏が仲裁に奔走するという構図になっただけに、今後も紆余(うよ)曲折が予想される。

ついでにこれに関する記事を集めてみた。

・『出産無料化を検討 少子化対策で経済支援 』(産経新聞 1/13)
http://www.sankei.co.jp/news/060113/sei064.htm

・『政府が少子化総合対策に着手、財政負担に課題も』(読売新聞 1/13)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060113i213.htm

・『猪口氏、「出産無料化」朝令暮改 混乱招き発言修正』(朝日新聞 1/13)
http://www.asahi.com/life/update/0113/006.html

・『少子化対策:出産費無料化など検討事項提示 猪口担当相』(毎日新聞1/14)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060114k0000m010080000c.html

・『少子化対策で出産無料化など浮上・政府会議6月提言へ』(日経新聞 1/14)
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1C1300E%2013012006&g=P3&d=20060114

OECD諸国においては、児童関連の社会保障の充実と出生率の間に緩い相関関係があることは認められているが(例えば、日本、イタリア、スペインは児童関連の社会保障支出が低くて出生率が低く、北欧諸国は児童関連の社会保障支出が高くて出生率が高い)、児童関連の支出を増やせば出生率が上がる、という因果関係の存在についてはコンセンサスは得られていないようである。

個人的には、出産費用の自己負担20万〜30万円のために出産を控えるのは、低所得層の一部に限られるように思われるので、出産費用の無料化は「少子化対策」としてはあまり意味がないと思う。

もちろん、低所得層の夫婦にとってはありがたいことだが、中・高所得層の夫婦にとっては、出産に対するインセンティブというよりも、単なるラッキーなボーナスに終るのではないか。

前回も書いたように、私は基本的には出産・育児・教育費用の社会化には賛成だし、出産無料化も育児無料化も教育無料化もいいことだと思う。だけれども、その実現は、北欧諸国並みに税率を高くして、安定的な再分配制度を確立しなければ財政的に不可能ではないのか。

日本の希少な財源をこのような効果不明の「少子化対策」に手厚く支給するということは、その分、他の社会保障支出(医療や介護や生活保護)がさらに切り詰められるということである。それでいいのだろうか?

少子化対策」は、日本経済にとっても重要なため、あらゆる階層や利益団体に支持される傾向がある。だからこそ、この厳しい財政状況の中で、唯一といっていいほど、政治的にも積極的に支出を増やそうとしている(公明党が強く押していることもあるし)。

だけれども、歳出削減圧力が強く歳入増加圧力が弱い(増税アレルギーが強い)今の日本で、一部分だけ歳出増加を図るということは、他分野における歳出削減圧力が一層強まることでもあるということを、認識する必要がある。

出産無料化に話を戻すと、「少子化対策」としての効果があるかどうかに拘わらず、子どもを育て易い社会の実現のために、他の社会保障給付とのトレードオフを引き起こすことなしに政治や経済界にできることはいろいろあると思う。

例えば、子育て世帯の労働時間の短縮とか、職場での託児所の普及とか、出産のために一度仕事を辞めた人たちの再雇用先がパート労働に偏る傾向の是正とか。まぁそういうこともやろうとしているのだろうが。

そして出産無料化を本気でやろうとするならば、その財政負担をどこから捻出するのかをきっちりと考えて、国民に説明して欲しい。他の社会保障給付を削ってそっちにまわす、とか安易に考えることはやめてほしいのだ。