研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:「小さな政府」、「大きな政府」、「社会保障の負担/給付」に関する国民意識

小さな政府と社会保障の両立を求める変な国民(すなふきんの雑感日記)
http://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/20090908/1252362873

このテーマは少しくらい前から日本の経済学者や社学者の実証研究の対象ともなっているテーマでもある。

個人的には、国民というよりも政治レベルor論壇レベルでは「小さな政府」という言葉が下記で述べたようにいろいろな意味で使われていることが、議論がわかりにくくなっている一因だと思う。

一方で、「小さな政府」は何を意味するのか。この言葉は様々な解釈が可能であり、行政効率化(by財政・行政学者)、規制緩和(by経済学者)、地方分権(by財政・行政学者)、措置から契約へ(by厚労省社会福祉学者)、当事者主権(by障害者団体)、分配する最小国家(by立岩真也)などは全て「小さな政府」と解釈可能である。(*この文章では最も一般的な「小さな政府=低負担・低給付」の定義が抜けていた)

「『日本の難点』:「大きい社会」を支える政府のあり方についてメモ」
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090425#p1

行政や規制のあり方が効率的な政府=「効率的な政府」、租税・社会保障負担や社会保障給付が少ない政府=「小さな政府」と分けるだけでもだいぶすっきりすると思うが、なかなかそうはなってはくれない。昔受けた公共経済学の授業で、先生が、政府のフロンティア生産関数の説明のときに、似たような定義に基づいて、スウェーデン(or北欧諸国?)は「大きくて効率的な政府」で日本は「小さくて非効率的な政府」と位置づけられるかもと話していたことを思い出す。

追記:ただしフロンティア関数の観点から北欧諸国のアウトプットが効率的と言えるのかどうかは、よくわからない。より政治的なレベル、すなわち政府が供給するオウトプットがどれだけ国民のニーズに合致しているか否かという「効率性」で北欧諸国は日本より「効率的」なのかもしれない。神野直彦氏がよく使う言葉で言えば、前者は「内部効率性」、後者は「外部効率性」とも言える。後者について(アンケート調査の域を超えた)統計的・計量的な研究があるのかどうかは知らないので、いずれ調べてみたい。

話を戻すと、国民レベルでは、上述した「小さな政府」の定義をめぐる混乱に加えて、政府のあり方に対する国民意識自体も(階層・階級・性別・職種・支持政党等の属性を問わず)あんまり明確でないのかもしれないので、さらによくわからない状況になっているのかもしれない。が、よくわからない。

このテーマについてウェブで読める論文には以下のものがある。
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/06120003.html

概要
我が国の財政状況は先進国の中で最も厳しい状況にある。そのような中、少子高齢化が今後ますます進展することもあり、国民負担の増大が避けられないものとなっている。租税や社会保障の負担の増大が労働インセンティブにマイナスの影響を与え経済の活性化を妨げるという意見もあり、国民負担率(あるいは潜在的国民負担率)の増大をできるだけ回避するため、公共支出や社会保障制度の改革が断続的に行われている。しかしながら、医療、年金、介護といった社会保障制度から人々は一定の便益を得ているのも事実であるし、現在世代や将来世代にとって有益な社会資本も存在する。したがって国民負担率がどの程度が望ましいのかについて議論する際には公共支出や社会保障制度からの便益も同時に考察しながら議論を進めることは重要であろう。我々はこのような視点に立ちアンケートを行うとともに、主成分分析の手法などを用いてアンケート結果の考察を行った。

アンケートの集計結果の考察から、人々は社会保障制度に対しての期待は高いが、一方で公共サービスは非効率であるとも考えているようである。また、人々は所得や資産の変動リスクを再分配政策によって回避することより、長生きのリスクや病気になるリスクの回避を重視していると解釈できた。
主成分分析からは、男性は女性に比べて保険に関して関心を持ち、社会保障制度に保険以外の側面に価値をおいていることが分かった。また、社会保障制度の縮小についても否定的で、社会資本整備などは削減や効率化を望んでいることが分かった。一方、女性は小さな政府を志向し、再分配的側面ではなく受益と負担が一致した社会保障制度などを求める傾向にある。ただし、教育や環境といった政府支出に関しては充実を求める傾向がうかがえる。また、世帯年収については低所得者ほど小さな政府に関しては否定的であることが読み取れる。学歴に関しては高学歴ほど大きな政府には肯定的だが、政府サービスの削減と効率化を望んでいることが示された。

あとは同じ年にこんな本もでた。

書評もある。(by直井道子)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18095310.pdf

第3 部は福祉国家の中心的な論点についての人々の意識を探っている。10 章では再分配に関する媒介原理について人々がどう考えているか,大きな政府か小さな政府か,再分配の回路を公共部門中心か民間部門中心か,選別主義か普遍主義か,社会保障給付は必要に応じて払うか貢献に応じて払うか,などを質問している。その結果は「高福祉」,「貢献に応じて」,「選別」,「官を通じて」が大体において多数派(5 - 7 割)であった。

11 章では,10 章で扱われた原理の組み合わせのうち,「高福祉,民営化」という組み合わせを選んだ人に特に注目してそれがどういう人々なのかを分析している。12 章はいろいろな政策への政府の責任期待意識が政党支持と密接に関連していることを示した。いわゆる「保守」は責任無し,「革新」は責任ありの方向性を示す。さらに物質主義―脱物質主義のイングルハート指標を用いて,物質主義的な価値観を持つ人は政府責任を重視せず,脱物質主義的な価値観を持つ人が政府責任を重視し,大きな政府を目指すことが示された。

p196-7

あとは以下で紹介されているように、最近では駒村氏も取り上げている。

小さな政府と社会保障拡大を求める欺瞞(Economics Lovers Live)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090908

大貧困社会 (角川SSC新書)

大貧困社会 (角川SSC新書)