研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

セックスとインセンティブ

オーラルセックスの経済学(Economics Lovers Live)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20061107

「避妊具の高騰、HIVの危険性の周知、中絶のコストの高まりによって、その代替としてオーラルセックスの需要が高まった」ということだそうで、「そんなことあるかなぁ、みんなオーラルセックスの楽しさと気持ちよさに気付き始めただけだろ」と思ってリンク先などをざっと読んでみたが、うーむ、これはありうるかもしれない。。。今まで考えたことなかった。

ただ日本人と米国人のセックスに対する行動インセンティブはやや異なるかもしれないから、(もし正確に状況を理解することを望むならば)慎重な調査や統計的検証が必要だ。これは結構面白いかもしれない。

例えば、20代くらいの男女二人が、Hをしようとしたところコンドームがない、というよくありがちな状況について考えてみよう。このとき、「何もしない」という選択肢はなく、「オーラルセックスをするか、コンドームなしでセックスするか」という選択肢に二人は直面するとする。

この選択を決定するのはなんだろうか。

第一に、二人がどういう関係かによるだろう。「でもやっぱHはしたいから外出し(コンドームなしで膣内性交し、射精は膣外で行うこと)するよ(してね)」みたいな状況が起こる確率は、Hの相手がただの友達や知りあいやセフレの場合より、付き合いの長い彼氏・彼女の場合のほうが高いだろう。逆に、「Hしたいけどコンドームないからオーラルセックスだけにしておこう」ということが起こる確率は、彼氏・彼女よりも友達・知りあい・セフレのほうが高いだろう。(*ちなみに、誤解のないよういっておくと、外出しによって妊娠や性感染症のリスクは減少するにしても、なくなるわけではありません)

第二に、個々人のリスク選好の構造によっても大きく変わってくるはずだ。自分の周りをみても、相手が付き合いの長い彼氏・彼女の場合にもコンドームは欠かさない慎重な人もいれば、コンドームを持っていようが持っていまいが、相手が誰であってもコンドームはなるべく使いたがらない人(これはもちろん女よりも男に多いだろう)もいる。もちろん男女間でもリスク選好は大きく異なるだろう。

第三に、リスク選好だけでなく、セックスそのものに対する選好のあり方によっても変わってくる。コンドームを使うセックスとコンドームを使わないセックスの差をどのように感じているか、いわゆる「普通」のセックスとオーラルセックスの差をどのように感じているか、などの個人的選好は個々人によって大きく異なると考えられるからだ。

第四に、個々人のリスクやセックスに対する選好だけでなく、セックスの主導権をどちらが握るか、セックスというコミュニケーションを当事者の男女がどう捉えているか、という社会学的な要因によっても変わってくるだろう。これは、男女どちらの選好構造が選択肢の選択に強く影響するか、あるいは男女が互いのセックスに対する選好をどのような形で自分の選好構造に組み入れているか、という問題として捉えてもいいかもしれない。

こういういろんな要因を考慮して、何らかのミクロ経済モデル(もしくはミクロ経済学的な仮説)を組み立てることは可能だろう。それも参考にしながらアンケート調査を設計して、その結果をミクロ計量経済学の手法を使って分析する。このようなセックスに対するリスク選好や個人的選好、その帰結としてのセックスの仕方の選択は、「個々人、カップル間によって全然違う」で片付けてしまいがちだけど、たしかにミクロ計量的に分析すれば、けっこう面白い結果がでてくるかもしれない。

ちょっと話は拡散してしまうけれども、風俗のSMプレイでMを希望する人にはおえらいさんが多い、という話を読んだことがある。そのときには、ふだんS的なポジションの人はM的な性的快楽を求める傾向がある、みたいな仮説が提示されていた。ということは、所得や社会的地位の高さと性的M度の間には、意外にも正の相関があるかもしれない。他にも思いつく仮説はいろいろある。経済学的にも社会学的にも面白いインプリケーションが得られそうだ。誰かにやってほしいような、ほしくないような。

でもこれって面白い調査研究にするには、アンケート調査を設計する側の性的感覚や性的体験の豊かさが問われることになるかもしれない。。。こわいこわい。