研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

メモ:税制調査会専門家委員会「議論の中間的な整理」+「財政運営戦略」

専門家委員会委員長 神野直彦「議論の中間的な整理」
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/22zen2kai.html

この中間報告を「消費増税を提言」としている報道も2つほど貼っておく。でもざっと読んだ感じ、たんにその名の通り「議論を中間的に整理しました」ってだけで、別に提言というほどのものではない気がするのだが。それに名義は神野氏の個人名義になっているけど、これはどう解釈したらいいのだろう。

高齢化踏まえ、消費増税を提言―政府税調専門委中間報告http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100622-00000006-cbn-soci

政府税制調査会(会長=野田佳彦財務相)の専門家委員会の神野直彦委員長(東大名誉教授)は6月22日、これまでの議論の中間報告を政府税調に提出した。高齢化が進み、人口構造が変化する中では、「消費税を重視する方向で、国民により幅広く負担を求める必要がある」として、消費増税を提言。また、所得税についても「一定の役割を担わせる必要がある」とした。

 「議論の中間的な整理」と題した中間報告では、これまでの日本の税制改革について、減税や景気後退によって税収が減少する一方で、歳出面では急速な高齢化の進展によって社会保障支出が増加したと分析。こうした構造的な要因により、「財政は危機的な状況に陥っている」とした。

 その上で、増収に結び付くよう、所得税法人税、消費税などの税制全般の抜本的な改革を行い、「支え合う社会」の実現に向けて必要な費用を国民の間で分かち合う必要があると指摘した。また、社会保障制度を通じた再分配の役割が重要であり、安定的な財源を確保するための税制改革が急務とした。

 さらに、税制の抜本改革を進める上では、納税者が納得し、理解することが重要とも指摘。「課税逃れ」の防止や所得の正確な捕捉の必要性を挙げた。消費税の使途については、「社会保障と関連付けて理解を求めることが重要」とした。

(後略)

消費税:政府税調委、増税の必要性強調 中間報告「財政危機的な状況」http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100622dde007010015000c.html

政府税制調査会(会長・野田佳彦財務相)の専門家委員会(委員長・神野直彦東大名誉教授)は22日、税制の抜本改革に向けた報告書「議論の中間的な整理」を税調に提出した。報告書は「国民により幅広く負担を求める必要がある」と消費税増税の必要性を強調し、菅直人首相が言及した消費税増税を追認した。所得税も控除の見直しなどで、高所得者により負担を求める方向性を打ち出した。

(中略)

 そのうえで、財政破綻(はたん)を回避するため、「税収力の回復が急務」と指摘。高齢化の進展と勤労世代の減少を踏まえ、消費税を「社会保障を社会で広く分かち合う重要な税目」と位置づけた。ただ、具体的な税率や増税の時期には触れなかった。

 また、消費税とともに所得税を「税制の車の両輪」とし、格差是正のために「累進構造の回復」が必要と指摘した。法人税率の引き下げは、委員の賛否が分かれたため、両論併記にとどめた。

そもそも委員長の神野氏は、法人税減税や消費税増税には反対という立場を取っていたと思うのだが、そこらへんの考え方が変わったのか変わっていないのかは気になる。ただし神野氏は一方で消費税が高く法人税が低いスウェーデンの財政・地方財政を非常に高く評価している人でもある(ただしどちらも税率だけに注目するのはミスリーディングで、例えばスウェーデンは1991年の法人税改革で税率は下げたけど課税ベースはかなり広げた)。ここらへんの彼の立場の整合性については分かっている部分と分かっていない部分があって、きちんと調べたいと思ってはいる。法人税については海外と比較する場合は社会保障料負担も考慮しろというのが彼の持論であることくらいは知っている。消費税についての現在の神野氏の考え方については情報が断片的にしかないのでよくわからない部分が多い。専門家委員会の議事録読めば何かわかりそうだけど。いずれ気が向いたらチェックしてみよう。

関連エントリ:
[社会][財政]「税制調査会専門家委員」の勢力図
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100129#p1

ついでに同日?閣議決定された財政運営戦略。なんかポッとでてきた感じもするけど、きちんとフォローしてなかっただけなのか、内部の議論があまり公表or報道されていなかったのか。どっちもか。
http://www.npu.go.jp/policy/policy01/pdf/20100622/100622_zaiseiunei-kakugikettei.pdf

追記:これまでの議事録をざっと見てみたが、神野氏は調整役に徹していて、私見的なことはほとんど(全く?)述べていなかった。一方、「議論の中間的な整理」の要約版では、専門委員会の議論というよりも、神野氏らしい文言がたまに差し込まれている。「議論の中間的な整理」それ自体は、要約版の文言のあとに、各委員の議論を列挙している感じであった。ただし飛ばし読みなので、興味のある人はミスリーディングな報道(および本エントリ)よりも議事録および「議論の中間的な整理」を読むほうがよさそうだ。個人的には、前回の税調の専門委員会の議論もきちんとフォローしていなかったので、時間があればそっちも読んで勉強したほうがよさそうだ。議論の内容や方向性の違いを、両専門(家)委員会のの委員の学問的バックグラウンドや業績と絡めながら対比したりすると面白いかもしれない。