研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

金子勝の『市場と制度の政治経済学』についてのらくがき(追記あり)

ちょっと所有権と社会保障について勉強しようと、金子勝の『市場と制度の政治経済学』をぱらりぱらり読み返してみる。とはいっても、前回読んだときは予備知識がなくて理解できないところが多かったのだけれども。今回もそうだけど。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4130401580/250-6451781-4961046

ここの書評にも書いてあるとおり、
「本著は著者である金子氏の到達点であると共に、批判理論としての経済学の一つの到達点でもある。しかしあくまでライト・モチーフであり示唆に留まっている。また、氏のモチーフを実践する実証的な理論の構築に至る前に、氏自身はオピニオン・リーダーとなってしまった。氏を含め、本書を超えるような問題意識を問う書は10年経った現在でも世に問われていない。」
のだ。

金子勝は、途上国やイギリスや日本の財政、税制に関する実証的な論文をいろいろと書いてきて(http://www.ka-cat.com/g_ronbun.html)、その後にこの本を書いたあと、神野氏との一連の政策提言本やちくま新書を中心とした一般向けの著作にシフトして、アカデミックな本や論文を書かなくなってしまった。(論文は少し書いているみたい。)

『市場と制度の政治経済学』の面白さは、上記の書評に書いてある通りだと思う。こういうタイプの学問的伝統があってもいいはずだ。その意味で、彼がアカデミックな理論構築の作業を中断してしまっている(ようにみえる)のはもったいない気がする。それとも、もうあきらめてしまったのだろうか?

巷では反経済学、反グローバリズムの急先鋒として揶揄されることの多い金子勝だが、なかなか経済学批判をきちんと展開できる学者がいない中、新古典派のみならず新制度学派や比較制度分析までも、本源的生産要素市場化の限界や所有権構造という視角から理論的・実証的に批判しようという試みは、なかなか貴重だったのではないか。(追記:ただし確かに経済学理解は危うい箇所があるように思う。)

というわけで、えらそうに落書きしてる暇があったらもう一度ちゃんと読んでみよう。

追記:
ちなみに、金子勝はとにかく評判が悪いとです。ただし『市場と制度の政治経済学』について書いたものは知らないので、あれば読んでみたい。

『「傍流派経済学」の支離滅裂』(池田信夫
http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/Kaneko.html
金子勝を熱く語ろう』(いちごBBS) 
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0738/
ちなみに、ちょっと前の稲葉振一郎氏はこんなことを書いている。最近では、『経済学という教養』でもっと批判的に金子勝を取り上げている。
http://www.meijigakuin.ac.jp/%7Einaba/kaneko.htm