研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

「小中高を大学や自動車教習所のようにすればいじめは減る」論について

予備知識として、

いじめを無くすためにまず私たちがすべきこと(マル激)
http://www.videonews.com/on-demand/291300/000928.php

緊急落選運動:「安倍右翼政権による」教育基本法改正を阻止するため(の下のほう)
http://d.hatena.ne.jp/suuuuhi/20061116

深刻さを増すいじめの問題について 宮台真司さん
http://blog.livedoor.jp/ten_years_after/archives/51178471.html

私は基本的に内藤・宮台ラインの議論が、いじめ問題に関して一番生産的な議論をしていると思う。「どんな子がいじめるか」とか「どんな子がいじめられるか」とか、そういう個人帰属的な議論はもうたくさんだ。利するのはテレビや雑誌のコメンテーターだけではないか。

案の定、テレビ・ゲーム悪玉がでているらしいし。

テレビとゲームと社会が悪い♪
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20061123

鈍感な私は内藤・宮台の議論を知るまでこういうことは考えたことはなかったが、いじめが横行している小中高から流動性の高い大学に移った人や、小中学校のある意味異常な共同性に当時から敏感だった人は、私が内藤・宮台の議論を紹介すると、「前からそう思ってたよ」と言っていた。(ただしサンプルは二人の女性のみ。たいていは、「なるほどね〜。」とか「そうかもね〜。」みたいな反応をする)

また、大学でもシカトとかハブとかに悩んでいるという女の子の友達(本人がいじめられているわけではなく、「仲良しグループ」の内部+αでそういうことをくり返す、というよくあるパターン)がいたが、話を聞くと薬学部であるせいか授業や実習がかなり重なっていて、非常に流動性や選択可能性が低い環境であるらしかった。

さらに、実は私の大学の友人(これも女性だが)も、大学一年のときに「シカト」を食らっていた。しかしそれも大学一年時にのみ存在する「語学クラス」という、ちょっと高校までのクラス制の雰囲気を残したコミュニティでの出来事だった。

ただし、内藤・宮台仮説は、自分の感覚や周りの体験から判断するとかなり説得力があるように思えるけれども、この仮説を検証する厳密な実証研究はあるのだろうか。あればかなり強力な「クラスコミュニティ解体」論の補強材料になると思うのだが。

事実上単一の学校制度しかない日本だけだと検証は難しいと思うので、先進諸国の複数の形態の学校制度とそれぞれの下でのいじめ発生件数と、所得や年齢や成績や人種や文化資本などのコントロール変数を適切に組み合わせて、学校制度における選択可能性や流動性の高さがいじめ発生件数に与える影響をきちんと検証できないのだろうか。国際比較になるとコントロールすべき事柄が多すぎて難しいとしたら、同一の国や地域内に様々な学校形態が共存しているエリアを選んで、そういう計量分析ができないだろうか。レヴィットとかそっち方面ではそういう研究があるのだろうか。誰かなにか知ってたら教えてほしい。毎度のこと他力本願ですみません。

それにしても、小・中・高とか、固定的なクラス・学年制度があるところって、確かに男も女もけっこう強固な「派閥」ができて、それがいじめの原因になったりするよね。とくに中学では、クラスの派閥以外にも学年レベルの派閥もあったな。昔は無邪気に「派閥勢力図」とか「派閥ランク」とか「男女派閥間の仲の良さの関係」みたいのを整理して遊んでいたけれど、そういうものが生じる背景にクラス制度や学年制度があることまでは考えなかったなぁ。。。

参考文献

いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体

いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体

学校が自由になる日

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ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

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