Newhouse(1977)とNewhouse(1992) (追記あり)
bewaadさんのところで、兪炳匡の『「改革」のための医療経済学」』が紹介されているが、間違いがあるので指摘しておこう。
『兪炳匡「「改革」のための医療経済学」』
http://www.bewaad.com/20070121.html
ここでbewaad氏は以下のように書いているが、
続いて、いずれ(*権丈本と兪本のこと)においてもニューハウスの医療費に関する研究(1977)が基本的文献として取り上げられ、そこから論考が組み立てられているのですが、
両者が引用しているニューハウスの論文は違う論文である。権丈本で引用されているのはJournal of Human Resourcesに掲載されたNewhouse(1977)の論文である。
"Medical-Care Expenditure: A Cross-National Survey"
http://links.jstor.org/sici?sici=0022-166X(197724)12%3A1%3C115%3AMEACS%3E2.0.CO%3B2-F
一方、兪本で引用されているのはJournal of Economic Perspectivesに掲載されたNewhouse(1992)の論文である。
"Medical Care Costs: How Much Welfare Loss?"
http://ideas.repec.org/a/aea/jecper/v6y1992i3p3-21.html
まぁNewhouseさんは腐るほど医療経済学の実証研究論文を書いているようですからね。
http://scholar.google.com/scholar?hl=en&lr=&q=jp+newhouse&btnG=Search
あと、コメント欄を見ると日本ではデータがないせいで医師誘発需要の研究がなされていないかのように読めてしまうところもあるけど、推定方法の妥当性はともかく、けっこういろいろあると思う。最近では鈴木亘氏が、下記の本の第5章で、整形外科のレセプトデータというミクロデータを用いて分析している。ただ、Newhouse(1992)のような研究はない、ということだろう、たぶん。
- 作者: 田近栄治,佐藤主光
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2005/08/26
- メディア: 単行本
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
追記:
それにしてもbewaadさんのコメント欄にも書かれていたけど、供給者誘発需要って、たとえあったとしてもそれがいいのか悪いのかを判断するのは難しい。
介護保険でも、事業所による要介護者の過剰な「掘り起こし」があるのでは、という観点から供給者誘発需要の実証研究がいくつかあるけど、社会福祉系の人たちの間ではこの手の「掘り起こし」はむしろ介護サービスの普及という観点から肯定的に捉えられてきた側面もあるわけだし。
ここらへんをどう考えるのかという問題は、結局、すべてではないにせよ一部は、医療・介護サービスの望ましいあり方と財政負担の増加のバランスをどうとるべきなのか、ということに関する価値観や個々人の立ち位置の問題に繋がってくる気がする。例えば介護に関しては、財政学者は財政の維持可能性を気にするから「掘り起こし」を否定的に評価するのに対して、当事者や福祉関係者は介護サービスの普及という観点から「掘り起こし」を(ある程度)肯定的に評価する、みたいな。
関連エントリ:
『「改革」のための医療経済学』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061226#p1
- 作者: 兪炳匡
- 出版社/メーカー: メディカ出版
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 67回
- この商品を含むブログ (28件) を見る