研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

昨日のシノドスの若田部・熊谷対談(前編)についてのつぶやきの補足

昨日、αシノドスメルマガvol.120の熊谷晋一郎×若田部昌澄 / 「市場とケア(前編)」

http://synodos.jp/mail-magazine

についてつぶやいたのだが、

http://twilog.org/dojin_tw/date-130320/asc

それについて、知人に補足のコメントを送ったので、それを加筆修正してメモっておく。

私のつぶやきについては、例えば、「公的負担/私的負担」や「再分配と経済成長」については、ただの勉強メモだが、1年前のつぶやきで、いくつか最低限の参考文献を挙げながら、以下のようにつぶやいたことがある。

メモ:公的負担/私的負担、税と労働供給、政府規模と経済成長
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20120109#p1

ここに載っていない重要な参考文献として、古くは

Ram(1986)Government Size and Economig Growth A New Framework and Some Evidence from Cross-section and time-series data, AER
http://www.jstor.org/stable/10.2307/1804136

などもあり、近年の引用件数が比較的高い文献に限っても、

Afonso&Furceni(2010) Government size, composition, volatility and economic growth
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S017626801000008X
Checherita-Westphal &Rother(2010)The Impact of High and Growing Government Debt on Economic Growth: An Empirical Investigation for the Euro Area
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1659559

などがあり(後者は政府のサイズではなくて負債のサイズだが)、2011年にはJournal of Economic Surveyに以下の展望論文も掲載されている

Bergh&Henrekson(2011)GOVERNMENT SIZE AND GROWTH: A SURVEY AND INTERPRETATION OF THE EVIDENCE
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-6419.2011.00697.x/full

また、直近の日本における消費税増税と経済成長や消費の関係に関しては(こちらは若田部氏のほうがずっと詳しいと思うが)、こちらもただの勉強メモだが、3年前にブログでメモしている。

不況下の消費税増税(or財政再建or社会保障強化)がマクロ経済に与える影響
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100609/p1

これは個人的な見解だが、一般向け言説においても、できるだけ明示的に、これらの学術的分析をある程度網羅的に踏まえながら検討・考察したほうが、素人も専門家もその中間くらいのウォッチャーも、得るところは大きく、議論も建設的になると思っている。

私は若田部氏のような経済学史の専門家が経済論壇にいる意義は大きいと思っている一方で、細分化された学問領域の中で、膨大な先行文献を踏まえながら、自分の「限界的貢献」を時間をかけてアウトプットしていくという作業によくも悪くも浸っている「アカデミズムの中の人」にとっては、経済論壇における単純化された「経済学」の言及のされ方に不満を持っている人が多いのは事実だろう。

このような、経済論壇と経済学アカデミズムの社会的機能やアウトプット方法の違いによる無用な摩擦を減少させる効果的かな方法の一つは、言論の根拠となっている論文や本を「常に」明らかにしつつ、かつ対立する論点や論者に「常に」明確に言及しつつ、そうした「マッピング」の中で時論や持論を展開する、ということだと私は考えている。このような作法はアカデミズムの中ではいわば「前提」である(のが少なくとも姿勢としては求められている)のに対して、経済論壇サイドにはこのような面倒なことをするインセンティブは、論者や編集者にはあまりないだろう。

しかし、このような作法を課すことによって言論の内容が難しくなるわけでもないし、例えばシノドスのように両者の橋渡し的な機能を謳っている言論の場では、このような引用や参照のルールを、執筆サイドに任せるのではなく、編集の仕組みとして工夫することによって、言論の場として独自の地位を確立することも可能なのではないだろうか。

以前、熊谷氏とツイッターか何かでお話したときも、「とにかく経済学や経済学者のマッピングがわからず、どう考えたらいいのかわからない」的な問題意識を持っているようだったし、似たような話は非経済学者からよく聞く。それならばなおのこと、上記のような経済学における古典的&最新の参考文献に言及しながら議論したほうが建設的だったのではないか、と感じた。経済学史のプロである若田部氏は体系的な研究マッピングは得意だろうし。