研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

認可保育園と認可外保育園における児童死亡率の差の検証

ほんの数時間で書こうと思ったら、思いっきり半日はかかってしまった。。。長くなったので、PDFバージョンも作って、エセ論文っぽい体裁にもしてみた(PDFのほうが読みやすいです)。とはいえ半日で勢いで書いたので、各種誤りがあるかもしれないので、ご指摘あればどうぞよろしく。

PDFバージョン:認可保育園と認可外保育園における児童死亡率の差の検証
https://sites.google.com/site/dojinsites/dojin20130709_ver3.pdf


著者名を実名化したPDFバージョンを作成しました(2020年9月10日)
https://www.dropbox.com/s/e4y8qkd1ruivfdv/130323hoikuen_shiboritsu.pdf?dl=0

追記情報
2013.3.24
「認可外保育施設の現況取りまとめ」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000023dzr-att/2r98520000023e3d.pdfに認可外保育所児童数の(ほぼ)全数調査があり、年齢構成も分かることが判明した。近々反映させる予定。ご指摘頂いた大石亜希子先生に感謝します。)
2013.3.24
上記について、本文に反映。
2013.3.25
はてブから、重要だと思った(批判的or追記的)コメントをエントリの最後に掲載。基本的には、「月齢、親の労働環境、病児などの児童側の属性の差や、保育時間などの「保育の質」とはやや異なる保育の性質の違いが、認可と認可外の死亡率の差に影響を与えている可能性は排除できない」というもの。また、本論とは直接は関係ないが、「認可外でも家庭よりは死亡率は低いのでは」という、それ自体は重要な指摘も。

2013.12.9
そういやこんな「続き」もあった。
http://twilog.org/dojin_tw/date-130705/allasc-nort

2013.12.11
「保育施設での死亡事故、国への報告漏れ31件」(読売新聞 12月11日(水)18時22分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131211-00000417-yom-soci
「保育施設で乳幼児死亡、新たに31件 厚労省調べ」(朝日新聞 2013年12月11日19時15分配信)
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110367.html
(文末も参照)

要約
厚生労働省の事故報告に記載されている集計データを用いて、認可保育園と認可外保育園の間の児童死亡率の差の検証を行い、両者の間に顕著な差があることを確認した。また、認可保育園と認可外保育園において、後者のほうが死亡リスクの高い0、1歳児の利用児童割合が高いものの、絶対数では前者のほうがかなり大きく、にもかかわらず死亡事故は後者において多く発生している。従って、利用児童の年齢構成の違いが両者の間の児童死亡率の差を説明できる余地は小さいことが分かった。本検証結果が妥当であるならば、両者の死亡率の違いは、認可保育園と認可外保育園のいわゆる「保育の質」の差によるものである可能性は高い。その場合、死亡率の低い認可保育園の増加による認可外保育園利用児童数の減少も、死亡率が高い認可外保育園への公的補助拡充や公的な監視強化による「保育の質」の上昇も、ともに児童の死亡リスクを減少させると考えられる。

1.イントロダクション

宮本徹という方が

「待機児童の理由は何か  駒崎弘樹さんに伝えたいこと」
(2013.3.21)
http://miyamototooru.blog.fc2.com/blog-entry-3.html

というエントリでフローレンスの駒崎氏のブログエントリ

「待機児童問題を考える前に、そもそも保育園の歴史を振り返ってみようか」
(2013.3.20)
http://komazaki.seesaa.net/article/348576326.html#more

を批判的にとりあげ、それに対して駒崎氏がツイッターで批判している。

https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314980336192868352
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314982518363398144
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314982983843061760
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314983753812422656

双方の主張の是非はともかく、論点として最も気になり、駒崎氏が明確に応答していないのは、宮本氏の以下の指摘である。

「2012年の保育施設での死亡事故は認可保育園6件、認可外保育施設12件となっています。認可保育園は200万人以上が預けられており、認可外保育施設が20万人弱ですから、死亡事故率は20倍もの差があります。認可保育園での死亡事故も詰め込みがはじまってから増えています。」
 http://miyamototooru.blog.fc2.com/blog-entry-3.html

認可保育園と比べて認可外保育園の児童死亡率がかなり高いことは、厚生労働省の毎年の事故報告より明らかであり、(おそらく)関係者にはよく知られた事実である。一方で、この厚生労働省の事故報告は詳細を欠く集計データであり、このデータを用いて信頼のおける統計的分析を行うことは不可能である*1

案の定、今回の二人のやりとりをきっかけに、既存の文献を調べてみたところ、認可保育園および認可認可外保育園における死亡率の差についての研究は見つからなかった *2。従って、とりあえず厚生労働省の報告の数値を整理して検証してみることにした*3

2.検証に用いたデータ

検証に用いたのは、厚生労働省がここ数年、毎年公表している認可・認可外保育園における死亡事故件数である(表1)。毎年報告内容が少しずつ異なるが、認可・認可外保育園別の死亡事故件数は必ず掲載されている。

3.検証結果

表2は、上記の厚生労働省報告をベースに、各年の児童死亡率を認可・認可外保育園別に計算したものである。元の厚生労働省報告では、死亡事故件数の集計期間が異なっており、また参考として掲載されている認可・認可外保育園児童数の時期が1年ずれているため、それらについてもできるだけ考慮して計算した。

表2によると、宮本氏が述べるように、認可保育園と認可外保育園の間の児童死亡率には著しい差があり、これは宮本氏が指摘した2012年のみでなく、厚生労働省報告の全報告期間に渡って見られる特徴である*4。厳密な統計的検定をしなくとも、このような認可・認可外保育園間の死亡率の違いを「誤差の範囲内」と考えるのは難しい*5

4.追加検証

むろん、これだけでは、なぜ認可保育園と認可外保育園の間にこれほどまでに大きな死亡率の差があるのかは分からない。なぜならば、保育園における乳幼児の死亡に影響を与えうる要因として、保育園の質(児童あたり面積、児童の乳幼児あたりの保育士数、保育士の質・労働環境など)以外に、預けられている児童の年齢、健康状態、保育時間など、様々なものが考えられるからだ。このような保育園の質とは無関係な「児童側の要因」が認可保育園と認可保育園の間で大きく異なる場合には、それらの要因が死亡率の差に繋がっている可能性も否定できない。

これらの「児童側の要因」の中で、もっとも重要な要因として挙げられるのが児童年齢である。上述した厚生労働省の死亡事故報告では死亡した児童数を年齢別に公表しており、保育園での死亡事故の8割近くは0歳、1歳の死亡事故であることが分かる(表3)。

そこで、認可保育園、認可外保育園の年齢別児童数や年齢構成がどの程度異なるかを調べてみた。認可保育園の利用児童数については、「福祉行政報告例」に年齢階級別の統計が掲載されている(ただしなぜか1,2歳、4歳以上はそれぞれ一つのカテゴリになっている)。一方、認可外保育園については厚生労働省の「認可外保育施設の現況取りまとめ」に年齢区分別入所児童数が掲載されている*6。これらについては、東日本大震災の影響による統計の欠落がない2009年度(平成21年度)の統計を用いた。また全数調査ではないが、「児童福祉事業等調査解説」の平成19年度、平成21年度版にもサンプル調査があるため、それらも参考値として年齢構成を計算した*7

表4によると、認可保育園と認可外保育園において、後者のほうが死亡リスクの高い0、1歳児の利用児童割合がやや高いものの、絶対数では前者のほうがほぼ10倍とかなり大きい。従って、死亡事故は絶対数においても後者において多く発生していることを考慮すると、利用児童の年齢構成の違いが両者の間の児童死亡率の差を説明できる余地は小さいと考えられる。

5.結論と考察

今回、厚生労働省の事故報告に記載されている集計データを用いて、認可保育園と認可外保育園の間の児童死亡率の差の検証を行い、両者の間に顕著な差があることを再確認した。また、認可保育園と認可外保育園において、後者のほうが死亡リスクの高い0、1歳児の利用児童割合が高くなっている一方で、絶対数では前者のほうがはるかに大きく、にもかかわらず死亡事故は後者において多く発生している。従って、利用児童の年齢構成の違いが認可保育園と認可外保育園の間の児童死亡率の差を説明できる余地は小さいことが分かった。

この検証が概ね正しく、認可保育園と認可外保育園に有意な死亡率の差があり、それが利用児童の年齢構成や健康状態等の差によるものではないとする。その場合、両者の死亡率の違いが認可保育園と認可外保育園のいわゆる「保育の質」の差によるものである可能性は高いと考えられる。そうであるならば、宮本氏が主張するような(死亡率の低い)認可保育園の増加による認可外保育園利用児童数の減少も、駒崎氏が主張するような(死亡率が高い)認可外保育園への公的補助拡充や公的な監視強化による保育の質の上昇も、ともに児童の死亡リスクを減少させると考えられる。

一方で、一定の追加的公的財源を前提とした場合に、どの程度を既存の認可保育園への増加に費やし、どの程度を認可外保育園の質向上のために費やすことが児童死亡リスクの最小化に繋がるかは、今回の検証からはわからない。

ともに子供たちのことを想って発言しているであろう宮本氏と駒崎氏の不幸な対立を少しでも緩和し、「認可保育園の拡充」と「認可外保育園への補助拡大」の間のよりよいおとしどころ(公的資源配分や公的規制の最適な在り方)を検証するためにも、一刻も早く、詳細な保育所データの公開(もし存在しないのならば収集)を望む。
(あと、死亡事故発生保育園も含む保育所データを持ってる人いたら、私に下さいor研究結果を教えてください。

有益コメント@はてブ

「あと都市部無認可だと一つベッドに子供二人(死亡事例あり)が比較的良質のところでも常態化していたりする。同じゼロ歳一歳でも、無認可の方が低月齢多し。 でもご家庭よりは死亡率低いと思うよ無認可でも。」
http://b.hatena.ne.jp/sakidatsumono/20130324#bookmark-137721006

「親の労働環境の違いも考慮する必要があるのでは。認可外を利用している親にはそうせざるをえない理由があって、それが病気の時などの対応の差=死亡率の差になってないか」
http://b.hatena.ne.jp/chintaro3/20130324#bookmark-137721006

「 統計だけで見えない部分の検証が必要だろう。0〜1歳児で認可園だと病児は預からないとか看護師常駐義務等。深夜まで病児を預かり、病院が開いてない時間で対応が遅れて死亡とかはありえるので個別案件を見たい。」
http://b.hatena.ne.jp/fatpapa/20130324#bookmark-137721006

参考文献

駒崎弘樹(2013)「待機児童問題を考える前に、そもそも保育園の歴史を振り返ってみようか」
http://komazaki.seesaa.net/article/348576326.html#more

駒崎弘樹(2013)「もろもろのツイート」
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314980336192868352
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314982518363398144
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314982983843061760
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/314983753812422656

宮本徹(2013) 「待機児童の理由は何か  駒崎弘樹さんに伝えたいこと」
http://miyamototooru.blog.fc2.com/blog-entry-3.html

利用した統計

福祉行政報告例(厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html

地域児童福祉事業等調査(厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/25-20.html

保育施設における事故報告集計(厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002yx5.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000101kr.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020vca.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002sw6v-att/2r9852000002sw8c.pdf

平成21年度認可外保育施設の現況取りまとめ(厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015xus-img/2r98520000015xw9.pdf

(参考)平成 23 年度 認可外保育施設の現況取りまとめ(厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002ybfx-att/2r9852000002ybhe.pdf

追記の参考記事

2013.12.11
「保育施設での死亡事故、国への報告漏れ31件」(読売新聞 12月11日(水)18時22分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131211-00000417-yom-soci

自治体が国に報告していなかった保育施設での死亡事故が2004年〜12年に31件もあったことが、厚生労働省の調査でわかった。

 保育死亡事故に関する10月27日の読売新聞の報道で、過去に報告漏れがあったことがわかり、同省が10月末、全国の自治体に調査した。

 調査対象は都道府県、政令市、中核市で計109の自治体。このうち21自治体で31件の報告漏れがあった。これまでの同省の発表では、2004年〜12年の死亡事故は93件とされてきたが、124件になった。

 報告漏れがあった31件の内訳は、認可保育所での死亡事故が9件、認可外が22件。子どもの年齢別では、0歳が21人、1歳が7人。睡眠中の事故が27件と多く、死因別では、乳幼児突然死症候群(SIDS)またはSIDSの疑いが8件、窒息3件など。

「保育施設で乳幼児死亡、新たに31件 厚労省調べ」(朝日新聞 2013年12月11日19時15分配信)
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110367.html

厚生労働省は11日、2004年以降に保育施設で乳幼児が死亡した事故が新たに31件判明した、と発表した。各地の自治体が事故と認識せず、最近まで厚労省への報告事例から漏れていた。これにより、04〜12年に発生した事故は124件、亡くなった乳幼児の数は127人になった。

 厚労省は10年、保育施設で死亡事故が発生した場合、理由を問わずに報告するよう自治体に通知。ただ未報告の事故があるとの指摘があり、改めて調べた。追加で死亡が判明した31人のうち、17人は死因が特定できなかったケース。27人は睡眠中の死亡だった。

 報告漏れは、自治体が「睡眠中」や「病死」のケースを事故と認識していなかったのが原因。厚労省は死亡事故が起きた場合は報告するよう、改めて通知した。

*1:より詳細な分析には、死亡事故を起こした認可・認可外保育園を含む、個表レベル(すなわち保育園レベルでの)での保育所データが不可欠である。

*2:短期間(数十分)のサーベイのため、著者が既存研究を見落とした可能性は否定できない。

*3:ちなみに、宮本氏の指摘のうち「認可保育園での死亡事故も詰め込みがはじまってから増えています」については、統計のタイムスパンが短いことから、本稿の検証の対象外とした。

*4:例えば2011年にはこの差は著しい。

*5:ざっくりとした死亡率の差の統計的検定は、おそらくポアソン分布を仮定した上での希少事象発生確率の差の検定等になるのだろうが、すぐにできないので省略しようと考えた。しかし、念のため検索してみると以下の便利サイトを見つけた。Compare two counts based on Poissons distribution http://www.stattools.net/Twocounts_Pgm.php 解説 http://www.stattools.net/Poisson_Exp.php このサイトを使って検定してみると、2010,2011,2012年のどの年度の死亡率においても、それらの期間を合算して計算した死亡率においても、認可・認可外保育園間において児童死亡率が同じであるという仮説は有意水準0.1%で棄却された。ただしこの検定が本当に妥当かどうかは確かめていないので、コメントウェルカムである。

*6:2013.3.24追記:「認可外保育施設の現況取りまとめ」の存在については、大石亜希子先生にツイッターにて教えて頂き、version 2より反映した。

*7:なお、「児童福祉事業等調査解説」は市町村事業票、認可外保育施設利用世帯票、保育所利用世帯票及び認可外保育施設調査票から構成され、それぞれ3年周期で調査を実施している。平成19年は認可外保育施設利用世帯票による調査、平成21年は市町村事業票による調査であるため、調査対象が異なる点に注意が必要である。また、「認可外保育施設利用世帯票による調査」については、「児童福祉法に基づいて届出された全国の認可外保育施設(ベビーホテル及びその他の認可外保育施設)から、層化無作為に認可外保育施設を抽出し、その認可外保育施設を利用する世帯を客体とした」との記載があったが、「市町村事業票」については、調査方法の詳細はよく分からなかった。