研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

介護福祉士メモ

資格強化・厳格化の動きが強いため、私も念のため、今年の介護福祉士試験を受けた。筆記は通ったものの、実技はあまり出来がよくなかったからダメかもしれないが。

最近のニュースより。

『介護職の確保に四苦八苦 景気回復などで若者減少』
http://www.shinmai.co.jp/news/20070305/KT070301FTI090001000022.htm

高齢者の介護職を目指す人が減り、特別養護老人ホーム(特養)やデイサービスなどの事業者が職員確保に四苦八苦している。少子化に加え、景気回復で一般企業の求人が増え、若者が「きつい割に賃金が安い」とのイメージがある介護職場を避けていることが背景にある。近い将来、「団塊の世代」の介護で担い手が大量に必要になると予測され、県内の事業者からは「職員不足で制度が破たんしかねない」と危ぶむ声が出ている。

(中略)

厚生労働省福祉基盤課は「介護職の処遇をどう改善し、人材不足にどう対応するかは今後の課題。特効薬はなく、部局をまたいで検討していく」としている。

介護福祉士に上級資格 厚労省、創設へ』
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kaigo_news/20070306ik02.htm

厚生労働省は5日、重度の認知症患者などを世話し、介護事業で指導的役割を担える介護福祉士の上級資格として「専門介護福祉士」(仮称)制度を創設する方針を固めた。

 近く有識者会議を設置し、2007年度中にも制度の具体的な内容を決定する。「仕事がきつく、給料が安い」とされる介護福祉士は人手不足が深刻化しているため、新制度創設により、待遇改善などにつなげたい考えだ。

 新たな資格は、一定の実務経験や、新たな研修の履修などを要件とする方向だ。また、「認知症ケア」「事業の運営管理」など、介護の専門分野に応じた複数の資格とする方向で検討する。

(中略)

05年の厚労省調査によると、施設で働く介護福祉士らの平均年収は、男性が約315万円、女性が約281万円で、全労働者平均の約452万円を大きく下回る。一方で、介護職員の離職率は22・6%で、全労働者の17・5%を上回る。専門家からは「業務内容に比べて賃金水準が低い」との指摘が出ていた。

 新制度は、介護福祉士のキャリアアップを可能にすることにより、やりがいを感じ、給与水準を向上させることを目指している。

介護職の処遇を改善して人手不足を解消する特効薬は、先日のエントリでは医療報酬についていろいろ教わったが、介護報酬を引き上げて(需要を下げないように同時に自己負担は引き下げる必要があるかもしれないが)事業所や施設が介護職の賃金を引き上げられるようにすることだろうけど、今の財政制度では無理ということか。

でも「専門介護福祉士」を創設しても、普通の介護福祉士の労働条件は変わらないのでは。ただ、キャリアアップ志向の意欲のある介護福祉士を、労働条件が悪いままでも介護職に繋ぎとめる役割をある程度果たせるかもしれない。頑張って走るウマの前にニンジンぶらさげてさらに必死に走らせるようなものだろうか。また、介護の質の向上や要介護者の権限強化に繋がるかどうかは慎重な検討が必要だろう。

介護福祉士試験のためにちょっと勉強して改めて思ったのは、高齢者介護の文化と自立生活運動系の障害者介助・介護の文化の間には大きな溝があるということだ。以前、

『介護者の専門性と被介護者の専門性(というか当事者性)』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050812#p1

上野千鶴子の『ケアの社会学
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061226#p2

でも取り上げたトピックだけど、もっと慎重な検討が必要だ。介護サービスの当事者・消費者の選択・参加・権限強化という側面や、介護サービスの供給者の競争やら専門性やらという側面など、いろんな角度から検証できる。

これは個人的には社会学者に是非頑張ってもらいたいが、経済学者のよくいうところの「消費者主権」との有効性と限界を考える上でも重要なトピックだと思う。でも、おそらく普通のミクロ経済理論はいわゆる「消費者主権」の限界について考える有効な枠組みは持っていないような気もする。でも普通に理論内在的に考えられそうな問題ではあるから、誰かやっている人もいるんだろう。

この本とか、参考になるかな、ということで注文してみた。でもしばらく積読本かも。永遠に積読本でなければいいのだが。

離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)

離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)

関連エントリ:

障害者福祉・介助・介護についてのメモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050308

介護者の専門性と被介護者の専門性(というか当事者性)

http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050812#p1

記事メモ:機械浴は「風呂」じゃない?
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061006#p2

上野千鶴子の『ケアの社会学
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061226#p2

『障害者の経済学』が日経・経済図書文化賞に選ばれた件について
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061111#p1