もう書かないし書けないと思ってたけど、この続きを少し。
過剰で貧困な想像力
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070317#p1ロックトインについて語ることについて(追記1と追記2あり)
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20070326
実は、ここで宣伝されている本を購入してざっと読んだ。
http://blog.m3.com/Visa/
小説としての評価は置いといて、内容に対する感想を少しだけ。まずは、基本的に上の二つの記事と変わらない感想を持った。やはり、もう少し慎重に考え、書くべき記述が散見された。もう少し小説に対する評価っぽく書くとすると、各キャラクターに与えられている役割がはっきりしすぎており、尊厳死を巡る微妙な問題がややすっとばされているように感じた。でもまた議論を蒸し返すのはよくないので、とりあえずmojimojiさんのタメになるエントリ
「尊厳死を容認する可能性を真面目に考える」
http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20070329/p1
あたりを出発点に、私も少し考えを整理したい。でも当面はこの出発点が終着点だろうけど。
次に、医療経済の問題についてもたびたび言及されている点について。例えば著者は、主人公のお医者さんをして
少子高齢化の社会では、医療費は末期状態での延命治療に使われるよりも、もっと子ども達や生まれてくる命を増やすために使われるべきではないだろうかと、麻子は思う。
なぜ、働いて社会生活を営んでいる安井のような患者が、高額だからという理由で、受けるべき治療が受けられず、植物状態でただ寝かされているだけの患者が、その治療を享受しているのか。
と言わせている。
これは一種の優生思想を含んでいるようにも読め、確実に一定の層から強い批判を受ける内容だろう。ただもうこれも延々と議論されてきた論点だろうし、そっち方面に任せておくとして、よくも悪くもこの問いは医療経済学的であるということははっきりさせておいたほうがいいと思う。
金と医療に関わる人間・病院・保険者・政府の行動や資源配分・分配について理論的・実証的に研究することが目的である医療経済学では、医療の資源配分・分配の効率性を高めるために、どのような医療のoutput指標を用いるかが重要な論点の一つのようだ。outputの指標が定まれば、限られたinput(医療財政)を用いて最大のoutputを生み出せる効率的な医療のあり方について議論をできる。こういう議論は適度に技術的だし、医療経済学者がメシを食っていくには格好のテーマだ(もちろん、医療経済学者の仕事はこのような費用対効果分析だけではないが)。麻子医師の問いも、この意味で医療経済学的だ。麻子医師の考え方は、inputの量が同じならば、outputとしては「延命治療」よりも「不妊治療」や「出産」のほうが大きく、そっちに資源を重点的に配分する方が効率的、というわけだ。また、inputの量が同じならば、「植物状態でただ寝かされているだけの患者」に対する治療よりも、「働いて社会生活を営んでいる患者」に対する治療のほうがoutputが大きく、そっちに資源を重点的に配分する方が効率的、というわけだ。こういう発想は、医療経済学の議論ではどうだかしらないが、多くの一般人にとっては、どちらかといえば普通の発想かもしれない。
この問題についてどう考えるかは、これ以上私には書けないが、とりあえず麻子医者および著者は、そのような考え方を持っているということだ。
でも私は、mojimojiさんも言うように、
http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20070329/p1
「そんなことして政府の財政が持つの?」とか、医療者が変に気を回す必要はない。なぜなら、足りるか足りないか知っている人は誰もいない上に示す必要もないと考えているフシがあり、とにかく「財政が危ない」とだけ言って、それが医療や介護が今まで以上の水準に引き上げられないことの絶対的条件であることを示す気なんてないんだから。説明責任は、官僚と経済学者にこそある。医療者は、まずは患者の命を守ることを第一に、「カネよこせ」とだけ言っていればいいと思う。
という立場もありだと思う。これには異論もあるだろうし、小説の中の麻子医者(及び著者)は「たとえ無尽蔵な財源があっても、植物状態で生き続けることはムダである。」と考えている可能性もあり、その場合はmojimojiさんの提案はあまり意味をなさなくなってしまうのであるが。
えっとヨタ話を書き散らしただけで別に何も結論はないのですが、このブログは私のメモだということで。
参考文献
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