研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

スラムドッグ$ミリオネアを見る前に/見た後に読むべき2冊(ネタバレなし)

かつて(というほど昔ではないが)私は、ムンバイに合計半年ほど滞在し、スラムに関わるNGOでインターンとして働いて様々なスラムに出入りし(もちろんソーシャルワーカーみたいなことはできないので、ただの見学)、家の目の前のスラムから来るメイドとその子供たちや近所のスラムの子供たちと毎日接し、オフィスに行く途中の路上生活者とも顔見知りになり、街で知り合ったスラムに住む若者の家に遊びに行ってそのまま泊まったこともある。なので、アカデミー賞8部門という話題作である以前に、ムンバイのスラムが舞台ということで、スラムドッグ$ミリオネアの公開は待ち遠しかった。

http://slumdog.gyao.jp/

その感想(ネタバレ若干あり)はまた次のエントリで書くとして、その前に、私のような表層的な理解・経験ではなく、ムンバイ(あるいは世界中)のスラムや路上生活者の生活の実態を深くえぐった本を二冊紹介する。興味のある人は是非どうぞ。とくに、最近でた力作ということもあり、後者はオススメ。

インドスラム・レポート

インドスラム・レポート

このブログでは過去何回も紹介している今や有名人の伊勢崎賢治氏の処女作。ムンバイ(当時はボンベイ)最大のスラム、ダラビにソーシャルワーカー(というか運動家)として住み込んでいた際に「インド通信」としてリアルタイムで書き綴っていたものを本にまとめたもの。20年以上前の本だが、本当に面白いし、若き伊勢崎賢治氏の筆致から、今の彼の思想的・活動的ルーツを知ることができる貴重な本である。

絶対貧困

絶対貧困

これもまた何度かこのブログで紹介した石井光太氏の新著。物語調のノンフィクションであったこれまでの著作とは違い、自ら「貧困学」と名づけるように、スラム編、路上生活編、売春編の全三部、全14講の講義形式のノンフィクション本である。世界中のスラムや路上に泊り込んで取材をしてきた著者にしか到底書けない本で、たぶん類書は世界中探してもほとんどないと思うので、英訳してほしいくらい。

内容がスゴイのは『物乞う仏陀』や『神の棄てた裸体』や現在どっかの雑誌(追記:もともとは月刊プレイボーイ。今は新潮45だった)で連載中のムンバイのレンタルチャイルドの話ですでに体験ずみだが、本書は写真、数字、統計、絵などでわかりやすく解説されているのが特徴だ。

正直いって、これに比べれば、『ヤバい社会学』なんてちっともヤバくないし、内容としても『絶対貧困』のほうが密度が濃いのではないか(ただし『ヤバい社会学』はあまり面白くなくて、途中から完全飛ばし読みでほっぽりっぱなしなので、じっくり読めば違うのかも。ヴェンカテッシュについては、本業のアカデミックな論文を読んだほうがよいのだろう。追記:『ヤバい社会学』こんなふうに書いてしまった手前、ちょっともう一度読んでみたが、やはりじっくり読めばも面白いのかも。暇があれば他の本や論文も読んでみたい。)

ヤバい社会学

ヤバい社会学

関連エントリ
<スラム関連。どれも古い。>
http://d.hatena.ne.jp/dojin/searchdiary?word=%a5%b9%a5%e9%a5%e0

伊勢崎賢治氏関連。スラム関連とほぼかぶっている。>
http://d.hatena.ne.jp/dojin/searchdiary?word=%b0%cb%c0%aa%ba%ea%b8%ad%bc%a3

石井光太氏関連。とくに内容はなし。>
http://d.hatena.ne.jp/dojin/searchdiary?word=%c0%d0%b0%e6%b8%f7%c2%c0

追記:石井光太氏のブログでもこの映画は二回ほど取り上げられているが、まだ見ていないようである。ぜひ、感想を聞きたいものだ。

http://kotaism.livedoor.biz/archives/51281358.html
http://kotaism.livedoor.biz/archives/51300253.html