研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

東アジア福祉国家論メモ

アマゾンの宣伝で来ていたのでメモ。社会学政治学的な福祉国家論はぜんぜんフォローできていないのだが、最近も

Korpi&Palme(2003)"New politics and class politics in the context of austerity and globalization: Welfare state regress in 18 countires, 1975-95"
http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=173138

アブストを読んでダウンロードして1分ほど眺めてみるなど(ここでとまった...)、依然としてこの分野には興味を持っている。これはなにより、(記憶が薄れつつあるが)エスピン・アンデルセンの諸著作、諸論文のインパクトと面白さから来ているのであって(彼の1990年の本は、グーグルスカラーの引用件数が10000件を超えている)、日本からこの分野の国際的な研究者が出て、高い水準の政策論争を展開し、教えを請うのを楽しみにしている。ちなみに上記の論文をダウンロードしたのは、コルピとパルメを中心としたストックホルム大のThe Social Citizenship Indicator Program (SCIP) の試みに興味を持ったから。面白い国際比較のパネルデータベースが構築されている模様。

Social Citizenship Indicator Program (SCIP)
https://dspace.it.su.se/dspace/handle/10102/7

で、本に戻ると、

http://www.rku.ac.jp/home/topics/20100212_01.html

の解説によると、

金成垣編『現代の比較福祉国家論』がミネルヴァ書房から出版された。本書の帯には「比較方法論における『武川−田多論争』をベースに、第一線で活躍する日韓研究者による新しい理論構築を」というキャッチコピーが見られる。
ここでいう「武川−田多論争」の武川とは東京大学武川正吾教授のことであり、田多とは本学経済学部の田多英範教授のことである。両教授は、日本および韓国における福祉国家の成立の時期・要因等を巡って、2007年以来『週刊社会保障』誌上で、論争をくり広げてきた。
日韓を軸に東アジアの比較福祉国家論を研究テーマとしている金成垣氏(東京大学社会科学研究所)は早くからこの論争に興味をもち、これを「武川−田多論争」と命名した。金氏は、「武川−田多論争」のさらなる拡大・展開が東アジア福祉国家研究の水準引き上げに役立つと考え、日本と韓国にいる研究者にこの論争への参加を呼びかけた。日中韓の研究者21人がこれに応じ、30本もの論文が寄せられた。こうして生まれたのが本書である。

とある。気になったのが、この「武川−田多論争」が、国際的な学術誌や国内の学術誌でもなく、『週刊社会保障』という業界紙で展開されていたということである。この本も論文集のようだが、オンラインからは入手できないし、値段高いし、海外からは当然アクセスしにくいし(もしかしたらどこかの学術誌などに掲載されている?)、どんなにこの論争やこの本の内容が高水準だとしても、色々な意味で残念。

出版業界のことはよくわからないのだが、少なくとも学者は出版で食っているわけではないので、こういう専門論文集って、ワーキングペーパー(しかも日韓なので原論文は英語?)としてネットにアップしてくれたほうが、1万円近い本として売り出すよりもよっぽど世の中や同業者や学生にとってありがたいし影響力もあると思うのだが。別に本を出版して学者としての格があがる時代でもないだろうに(まだそこまで言い切れないのが哀しいところ)。

そもそも今の時代に、学術論文を「紙だけ」で出版する意味ってあるのだろうか。編集者のチェックによる質の担保という側面がいくらかはあるかもしれないが、大学や研究所が公開しているワーキングペーパーだって、研究会・学会・シンポ等々での研鑽をある程度経た上で公開されているわけだし。

ついでに、「東アジア福祉国家」についての論文を適当に検索してメモ。重要な文献が抜けてるかもですが、土地勘がないのでわかりません。。。

Goodman&Peng(1996)The East Asian welfare states: peripatetic learning, adaptive change, and nation-building(これは本の一章。確か日本語訳されている)
http://books.google.co.jp/books?hl=en&lr=&id=7gZwbrq-wNYC&oi=fnd&pg=PA192&dq=takegawa++welfare+states&ots=cQ6ZZpnnwB&sig=DifyM2QBEU06V5HI6y2RvkiTSow#v=onepage&q=takegawa%20%20welfare%20states&f=false

Goodman(1998)The'Japanese-style welfare state'and the delivery of personal social services(これも本の一章)
http://books.google.co.jp/books?hl=en&lr=&id=Y_9QDyvh_MIC&oi=fnd&pg=PA139&dq=takegawa++welfare+states&ots=iFJeQIU-w7&sig=71fHFHDERsAoqoYB-ZaHj5nPlSo#v=onepage&q=takegawa%20%20welfare%20states&f=false

Goodman&White&Kwon(1998)The East Asian welfare model: welfare Orientalism and the state(これは本)
http://books.google.co.jp/books?hl=en&lr=&id=BgCDe0c0Nc8C&oi=fnd&pg=PA3&dq=east+asia++welfare+states&ots=lZws2iPE9B&sig=JRP-gMjC8k1haLelvpu4YCqYRCo#v=onepage&q=east%20asia%20%20welfare%20states&f=false

Hort& Kuhnle(2000)The coming of East and South-East Asian welfare states
http://esp.sagepub.com/cgi/content/abstract/10/2/162

Kwon(1997)Beyond European Welfare Regimes: Comparative Perspectives on East Asian Welfare Systems
http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=27807

Takegawa(2005)JAPAN’S WELFARE-STATE REGIME: WELFARE POLITICS,PROVIDER AND REGULATOR
http://sociology.snu.ac.kr/isdpr/publication/journal/34-2/01ShogoTakegawa(ok).pdf