自民が優勢だとは思っていたが、まさかの圧勝。いまのところ、
①都市部無党派層を中心とした小泉支持の「風」
②大勝ち、大負けを起こし易い小選挙区制度の特性
この二つが自民党の「地滑り的」圧勝の理由と考えられているようだ。
例えばBEWAAD氏は『選挙結果を見てのファーストインプレッション』(http://bewaad.com/20050912.html)において、
と述べている。まさに①、②である。
また、極東ブログでは、『二〇〇五年衆院選挙結果』(http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/09/post_cb85.html)において、自身の予想を省みる中で、
いわゆる無党派層が自分の予想より自民党に流れたことが小選挙区制度だとこれだけの地滑り(Landslide)起こすのだなとは反省。
と述べている。これも基本的に①、②を言っている。
また、今日の日経の朝刊で、政策研究大学院の飯尾潤教授も次のように述べている。
小選挙区制の特性は「勝つときには大勝ちする。負けるときには大負けする」ということだ。小選挙区制になって過去三何回の選挙は勝っても負けてもわずかな差で、与野党の議席は大きく変らなかった。今回、有権者の支持が流動化したことで特性が浮き彫りになった。
これも、「有権者の支持の流動化」を、都市部無党派層を中心とした小泉支持の「風」と解釈すれば、①、②である。
また、田村哲樹氏も、選挙速報の結果を受けて書いた『速報』(http://d.hatena.ne.jp/TamuraTetsuki/20050911)のコメント欄において、
ご指摘のように、小選挙区では、通常はほとんど波風も立たない(つまり基本的に現職優位)けれども、いったん荒れ始めると波風どころか「津波」のような劇的な作用が起こり得ます。相違う意味では、「風」の原因を安易に政治文化に帰することには学問的には慎重を期する必要があるでしょうね。ただ、実感レベルで、『「風」というのはこういうものか』と初めてリアルに感じたということかなと思います。
と述べている。これも基本的には①、②のロジックである。
しかしそれでもまだまだ解せないのは、なぜ①の現象が、②を引き起こすまでに大きくなったのか、ということだ。なぜ、弱者切捨ての可能性が高い小泉政権を、潜在的・顕在的な弱者が多く含まれるはずの都市部無党派層がこれほど支持をしたのか。
この問いに関して、先日引用した宮台真司のコメントは依然として示唆的である。
■彼(注:小泉)は十年前から、バラマキ政治を続けたら未来はないと主張しています。完全に正しい。財政赤字を積むバラマキは、もの言えぬ子孫からの収奪で、倫理的に許されない。すぐにやめるべきです。
■でも、バラマキをやめるのと、弱者を放置するのとは別問題。現に社会的弱者だからこそ噴き上がる都市型ヘタレ保守は、小泉流「決然」にカタルシスを得ても、そのあと幸せになれません。そこに、都市型保守への「都市型リベラル」の対抗可能性があり、都市浮動票を取り合う二大政党制の可能性があるわけです。
■だから、民主党が示すべきは「都市型リベラル」の政党アイデンティティです。「小さな政府」が「弱者切り捨て」を伴ってはいけないと主張し、「都市型弱者」である非正規雇用者やシングルマザーや障害者の支援を徹底的に訴える。「フリーターがフリーターのままで幸せになれる社会」をアピールすればいいのです。
■「バラマキはダメだから壊す」の小泉流は明瞭です。対する民主党が「壊し方の非合理性」を訴えるのは稚拙です。郵政法案がデタラメでも、デタラメな法案を武器に使って旧経世会を葬り去ったことを、国民が賞賛しているのですからね。小泉氏を倣って「削る」「縮小」を繰返すのも稚拙です。「小泉さん、壊してくれてありがとう。壊れた後は民主党が作ります」で行くべきじゃありませんか。
■「都市型保守」のネガティビティに「都市型リベラル」のポジティビティを対置する。「不安」に「幸せ」を、「不信」に「信頼」を対置する。本当にタフでカッコイイのはどちらか。言うまでもありません。
『民主党がとるべき道とは何か』http://www.miyadai.com/index.php?itemid=283
この宮台氏の「都市型ヘタレ保守」VS「都市部リベラル」分析が正しいとするならば、結局、都市部無党派層の投票行動は、未だ「不安」「不信」ベースの「都市型ヘタレ保守」であって、「幸せ」「信頼」ベースの「都市型リベラル」ではなかったということか。「小泉さん、まだまだ壊してくださいね」というアンチ旧経世会の声がいまだ根強く、その先の国家の姿を描く意志や必要性が、都市部無党派層の潜在的・顕在的な社会的弱者にはなかったということか。
このことに関して、興味深い資料がある。ここ(http://www.tetsu-chan.com/)に掲載されている『郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)』http://www.tetsu-chan.com/05-0622yuusei_rijikai2.pdfである。
1ページ目の現状認識が興味深い。縦軸にIQの高低、横軸に構造改革に対する支持・不支持を設定し、第一象限(IQ高い、構造改革支持)のA層として、財界勝ち組企業、大学教授、マスメディア(TV)、都市部ホワイトカラーを上げ、第四象限(IQ低い、構造改革支持(一部不支持))のB層として、主婦層&子どもやシルバー層を挙げている。さらに、B層の説明として「具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを支持する層。内閣閣僚を支持する層」と書いてある。そして、郵政民営化や構造改革への支持を高めるためには「B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーションが必要と考える」と結論づけている。(IQ高い・低いという座標軸の設定は不正確で、政策や政治に精通しているか、していないか、という軸に置き換えるべきだと思うが)
宮台真司が言及している「小泉流『決然』にカタルシスを得ても、そのあと幸せになれ」ない「都市型ヘタレ保守」とは、20代、30代の若年独身(男性)層が多く、彼等もB層に位置づけられるであろう。B層は、上記ペーパーでは主婦やシルバー層が中心とされているが、このような都市部若年独身(男性)層の存在も忘れてはいけない
第二象限(IQ高い、構造改革不支持)や第三象限(IQ低い、構造改革不支持)は民主、社民、共産、国民新党、新党日本などに投票することは明白なので、今回の選挙は、この「都市型ヘタレ保守」を含むB層を自民が取るか、民主が取るか、という争いだったように思われる。
そして結局、「都市型ヘタレ保守」を含むB層は小泉自民党に投票し、宮台氏が主張するような「都市型リベラル」の勢力にはならなかった。この現象こそが①である。ではなぜ、「都市型ヘタレ保守」や主婦&シルバー層は「都市型リベラル」とならなかったのだろうか。
第一に、先述したように、「小泉さん、まだまだ壊してくださいね」というアンチ旧経世会の声がいまだ根強く、その先の国家の姿を描く意志も必要性も、都市部無党派層にはなかったということか。もしくは民主党がそういった対案を明確に提示できなかったということだろうか。
第二に、もっと根本的なところに、小さな政府を望む日本国民の心性があるのだろうか。例えば、平成17年度年次経済財政報告の「第1節 小さな政府とは」(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je05/05-00201.html#sb2_1)では、日本国民が小さな政府を望んでいる、という主旨のことが書かれている。
この報告を細かく読んでみると、いろいろと怪しい部分があり、あまり「国民が小さな政府を望んでいる」という結論を納得することができないのだが、次のデータは参考になる。
『社会保障給付に対する負担意思率』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je05/05-2-1-12z.html
具体的には、20歳代では負担意志率は0.15%とかなり低く、逆に、年金等の社会保障の受益を既に受けている(あるいはすぐに受けることになる)60歳以上では0.34%と高い水準になっている。このことは、将来の社会保障負担が大きくなる若年世代ほど負担意志が低いということであり、社会保障制度の設計上、受益と負担に関する世代間格差の問題に対応することが重要であることを示していると考えられる。その中間の年齢層の負担意志率については、20歳代と60歳以上の中間的な値となっているが、50歳代が比較的低い水準にあるのは、ライフ・ステージ別の分類でみたときに、長子が中学生・高校生である世帯では教育費負担の重さから負担意志率が低くなっていることからすると、そうした子育て最終段階にある世帯が50歳代に多いことを反映しているものと考えられる。また、都市規模別にみると、大都市では、中小都市や町村と比べて負担意志が高いが、これは大都市では比較的所得水準が高いことを反映していると考えられる。
平成17年度年次経済財政報告の「第1節 小さな政府とは」より引用
所得階層別の分類がないのではっきりとはわからないが、「都市型ヘタレ保守」の中核に都市部若年独身層が多くいることを考えれば、彼らの負担意志率もそれほど高いものではないだろう。むしろかなり低いことが予想される。そんな彼等に「都市型リベラル」になる理由は見当たらない。よって今のところ旧型の保守政治の破壊を進めてくれる小泉で十分、ということかもしれない。(将来、しっぺ返しを食らう可能性はあるのだが。。。)
また、シルバー層に関しては、年金などではすでに受益層であるのだから、民主党の目玉政策である年金目的消費税による基礎年金制度の確立は、消費税負担が増えるだけでたいして魅力がない、と考えたのかもしれない。そんな彼らに「都市型リベラル」になる理由は見当たらない。
それでは主婦層はどうか。報告書では年齢別かつ性別の負担意志率がわからないからなんともいえない。しかし、若い主婦層は民主党の「月額1万6000円の子ども手当て」などに魅せられる可能性はあったと思うのだが、どうだったのだろうか。自民党の「B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーション」に取り込まれてしまったのだろうか。
どれも推測にすぎずよくわからない、というのが正直な感想だ。とにかくポイントとなったのは「都市型ヘタレ保守」を含むB層の選挙行動だったのだと思う。彼らは何を考え誰に投票したのだろう。「風」の正体はいったいなんだったのだろう。
参考:こんな「解答」もありますが。。。
『総選挙の朝に思うこと』
http://bewaad.com/20050911.html