研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

歳出改革による痛み

歳出削減がお題目のように唱えられている。「わに口」(年を追うごとに歳出が増大し歳入が減少している状況をグラフにするとわにの口のように見える)といわれる近年の財政状況を改善するには、歳出を削らなければならない、というのだ。

増税も必要だが、その前に徹底的なムダな歳出削減を。これが与野党問わず主張されていることだ。その先の増税の仕方に関しては、消費税、所得税法人税相続税、などに関して様々な意見があるが、とりあえず、歳出削減なのだ。しかし歳出削減といっても、どこをどう削るのか。やっぱりそこが気になる。

歳出削減が福祉分野に手を伸ばすと、どういうことが起こるか。国政ではないが、いま東京の大田区で争われている行政訴訟は、非常に象徴的なものだ。

『鈴木敬治さんとともに移動の自由をとりもどす会』
http://suzukikeiji.hp.infoseek.co.jp/index.htm

このホームページに掲載されている、鈴木氏のエッセイを読んでほしい。彼の願いは、ほんとにささやかで、あたりまえのものだと思う。こんな願いも実現できないほど、日本は貧しい国なのか。こんなところも歳出削減しなければならないのか。

『こんな足だけどいろんなところに行ってみたいのさ』
http://suzukikeiji.hp.infoseek.co.jp/suzukihitori.htm


だからといって福祉は削らないとして、ムダな公共事業はがんがん削っていいかというと、それも簡単にはいえない。なんで地方の土建業界の兄ちゃんたちが、今回の衆院選で、あんなに熱心に地元の自民党や旧自民党の議員候補の集会に顔を出すのかといえば、そこに彼らの生活がかかっているからだろう。

土建業界の人たちが「既得権益」であるのは、一部の自覚的に甘い汁をすっている人たちを除いて、別に彼らが好き好んでそうなったわけではないのだ。たまたまそういう地方に住んでいて、高校を卒業して就職先を探したら土建業界があって、就職して初めて地元議員の大切さを職場で教わり、集会などに顔を出すようになる。

彼らとて、公共事業がなくなって収入が絶たれれば困るだろう。だからこそ、職場が違えば興味を持たなかった可能性の高い政治活動に、生活のために参加する。そんなところではないのか。

しかし一方で、その「既得権益」が、財政悪化の一因となったり、経済・社会に悪影響を与えたり、間接的に福祉財政を圧迫したり、諫早湾のように争いの一因になったりする。

お金の配分は難しい。なんとも煮え切らない。煮え切らない政治家なんて許されないだろうから、小泉首相のように「聖域なき構造改革」と叫びたくなるのも無理はない。

だからこそ、カウンターバランスが必要だ。福祉削減の厳しさ、公共事業にぶら下がらざるを得ない地方の現実、そういった煮え切らない事柄に対する建設的な対案を提出していく。それが二大政党の片割れとしての民主党に私が期待したものだった。前原民主党はそれができるだろうか。。。