石井光太著『物乞う仏陀』
- 作者: 石井光太
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/10/13
- メディア: 単行本
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アジア8ヵ国の物乞い(特に障害のある物乞い)との交流や物乞い事情のフィールドワークを題材にしたノンフィクション本。まだ第一章のカンボジアと第八章のインドしか読んでないけど、特にインドのところはけっこうキツい。
インドの章が衝撃的だから、と薦められて買って、インドの章から読んだら、ほんとに衝撃的だった。乞食ビジネスについてはムンバイに住んでいたときに現地の新聞などでたまに取り上げられていたし、たまにインド人が乞食に施しをあげない理由として乞食ビジネスを持ち出したりしていたので、少しは知っているつもりだった。しかし、私の知る限り、ここまで生々しい実態へと分け入った記事はなかった。とくにレンタチャイルドビジネスと、レンタチャイルドのその後の話は、どうコメントしていいのかわからない。以下、抜粋。
ふと横を見ると、近くにいた女乞食の腕の中で幼い子供が眠っている。女乞食の胸に身をゆだね、小さな寝息をたてている。母と子そのものだった。
「マフィアはどうやって子供をコロニーにつれてきたんでしょうか」と私は尋ねた。
「誘拐じゃない?他に方法はないもの」
「・・・・・・もし育ったら、どうなるんでしょう。いつまでもレンタチャイルドをやらせるわけにはいきませんよね」
「レンタチャイルドは五歳までっていう話よ」
「五歳を過ぎたら?」と私は訊いた。
「物乞いをさせるって話。わたしたちはそこまでは知らないわ。けど昔借りた子供が手や足を失って路上で乞食をしていたりするのはよく見かけるわよ」
「手足がなくなっているって・・・・・・切断されたんですか!」と私は声を荒げた。
「知らないわよ。わたしたちが知っているはずないでしょ」
(p242)
私は視線を下ろした。建物の脇に、子供たちが一列に並んで立っていた。横目で見てみると、ほとんどのものが手足を失い、失明していた。顔や手などに火傷を負っている者もいた。彼らは指さすわけでもなく、ささやき合うでもなく、じっと私を見つめてくる。
マフィアによる犠牲者なのだろうか。私は故意に彼らのほうに顔を向けた。誰も反応を示さなかった。無表情のままマネキンのように立っているだけだった。
(p245-246)
ただし、レンタチャイルドとしての商品価値は五歳ぐらいまでである。そのため、この年齢になると、マフィアたちは彼らをコロニー内部へつれていき、腕や足を切り落とす。五人の男が力ずくで押さえ込み、鉈のようなもので一気に腕か足を切断する。もしくは焼けたアイロンを顔に押しつけて火傷を負わせるのだ。
こうした一連の作業がなされた後、子供たちはマフィアが契約している医師によって治療をうける。切断箇所や回復状況によるが、おおよそ一ヶ月から三ヶ月治療に専念させられるそうだ。そして回復するとすぐに、障害をもった幼い乞食として町へだされるのである。
ただ、女の子と一部の男の子だけはこうした残虐な行為を免れる。前者は買春の道へ進まされ、後者は麻薬の運び屋やマフィアの下っ端としてつかわれるのだ。
(p253-254)
「ということは、あらかじめ数年後には手足を切る予定で赤子たちを誘拐してくるんですか」
「そうだな」と背の低い男はいった。「レンタチャイルドのままで一生を過ごすわけにはいかないだろ」
「子供たちはこのことを知っているんでしょうか」
「教えねえよ。教えたら面倒なことになるだろ」
「・・・・・では、逃げる子供は?」
「逃げたら、殺す。絶対につかまる」
男はそう断言した。面子にかかわる問題なのだろう。
私は唾を飲み込んでから、
「だけど、娼婦などは事情を知っているんですよね。誰も子供を助けないんですか?」と訊いた。
「もし子供にいったら、そいつが殺される。知った子供も殺される」
「殺されるっていいますけど、あなたが殺しているんじゃないですか」と私は思わず声を荒げた。
「俺は殺さないよ。もっと上の人間がやるんだ」と男は冷静に答えた。「俺たちは死体を片付けたり、切断された腕や脚を燃やすだけだ」
「だけど、もしあなたが上の地位についたら殺すんでしょ」
「そうだろうな。そうしなきゃ生きていけない」
(p254-255)
ただし、取材の仕方や方法についてはよくわからない点もあるため、どのように会話を再構成して文章にしているのかはわからない。そこは注意が必要だ。しかしそれを割り引いても、衝撃的な内容だ。
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